結局、最初に2人で入ったファミレスにも2人で一緒に歩いた道にも図書館にも居なかった。
俺は向かうところを失った。
走っていて気がついた。俺、直輝が行きそうなところとか分からねぇ。
知る機会もなかったし、知ろうともしてなかった。
いつも、直輝と一緒にいたのは図書館かあのファミレス、、、それから…
「…忘れてた!」
そうだ。俺は肝心なところを忘れていた。多分、図書館と同じくらい一緒にいた場所。
一番、直輝が気兼ねなく笑っていた場所。
俺はそのまま最後に望みがある場所へと走りだした。
そこにもし直輝がいなかったら、、、そんな考えを振り切るように全力で走る。
その建物が見えてきた。階段を駆け上がる。息が切れる頃に目的の階へと着いた。
そこに少年はいた。
ドアにもたれかかり顔を膝にうずめて規則的な呼吸を繰り返している。
俺は息を整えて、彼へと近づく。彼は顔を上げることなく先ほどと同じように規則的な呼吸を繰り返している。
「…直輝。」
俺は、一呼吸置いて勇気をもって彼の名を声に出してみた。
しかし、彼からの反応は一切なく、またも規則的な呼吸を繰り返している。
(こいつ寝てる。)
直輝は寝ていた。人の家の前でこんなに寒い中少しの防寒着も身につけることなく。
一気に力が抜けた。それはきっと呆れただけじゃなくて、そこに居てくれたからだと思う。
きっと、ここにいなかったら俺はどうすることも出来なかったから。
直輝がどんなに辛くても泣きそうでも支えを必要としていても、そこに俺が行けなかったら何も出来なかったから。
だから居てくれてよかった。
俺は直輝の頭をくしゃくしゃと撫でた。
すると、直輝は眠たそうな顔をあげ、一言「東司さん…」と俺の名を呼んだ。
その顔には涙の跡があった。
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