―――東司side

気付いたらそこにいる筈の人物がいなかった。最初はトイレにでも行っていると思った。
しかし、直輝はいつまで経っても戻ってくることはなかった。

受付の仕事を本棚の整理の人と代わってもらって、机へと向かう。

そこにはいつも読んでいる本の姿はなく、あの日直輝に遣ったマフラーが残されていた。

もしかして、、、そう思った。もしかして直輝はもうあの物語の結末を読んでしまったのだろうか…。
あの結末を、、、

俺はこの結末を知っていた。こんな職業をしていると新刊情報や話題の作家などいやでも知ることになる。
ある人気作家の今までの出版作の中に一度も見たことがないタイトルがあった。

言ってみればただの興味本位だった。
ただ、人気作家が無名のころに書いた本がどんなものか気になっただけ。
ただそれだけだった。特に俺が好きな作家であったわけではない。

読んでみると意外な展開だった。ただ甘いだけの物語と思わせておいて、最後に別れる。
しかも、思いのほかあっさりと。

直輝は普段は自分から甘えてこない。だけど、親が多忙であまり家に居なかったらしく時々とても寂しそうな顔をする。

そんな時はたとえ俺が、仕事が遅くなっても待って一緒に帰ろうと言い出してきかない。
悪く言えば我儘になる。

今日の直輝はそうだった。本を読んでいる時は分からなかったが、すこし休憩したときに見せた顔はそうだった。
幸せの中に紛れる悲しい顔は一際目立って儚げに見えた。

(そんな時にこんな結末は辛いだろ。)

心の中で会ったこともない作者に文句を言っていた。

椅子に置かれたままのマフラーを握りしめて、定時よりは少し早かったけど仕事を上がった。

走って直輝の家に向かう。すぐに家についてしまった。とにかくインターホンを押す。

応答は……ない。
何度押して見ても応答はなく、俺は走って今来た道を引き返す。
すれ違うおばさんが俺の姿を見て笑っている。

(そんなに人の苦労してる姿が面白いのかよ!)
話したこともない相手に八つ当たりをする。

(…直輝…。)






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