小説の後半数ページで結末は迫ってきた。

それは余りにも意外な結末だった。今までの物語を一切無視したような結末…。

「ごめん。」
主人公の男は相手の女の人にそれだけ言って、その人の下を去って行った。
残された女の人は、ただ茫然と男の人の背中を見ていた。

急な展開。そうとしか言いようが無かった。理由は主人公の男の人に新しく好きな人ができたこと。
確かに、小説の中盤でそういった描写があったけど、こんな小説だから結局この女の人の所に戻ってくるんだろうなとか思ってた。

でも、この小説は違った。男の人は女の人の下に戻ることはなくて、女の人は1人残された。
男の人は、結局新しい相手と結婚して幸せの笑顔をその女の人に向けている。

とても残酷で屈託のない笑顔、、、

「私って馬鹿だな。」
物語の最期は女の人のそんな言葉で締めくくられていた。

俺はそのまま本を閉じた。作者のあとがきなんて読もうと思わなかった。

「こんなことにならないよな…。」
一人で小さく呟いた。その言葉は誰にも受け止められることなく消えた。

本を元あった場所に戻して図書館の出入り口に向かう。
いつもは東司さんと一緒に帰るが今日はそんな気分ではなかった。

こんなこと考えたこと無かった。いつか東司さんが俺の前からいなくなってしまうなんて考えようとも思わなかった。
いつか、東司さんが俺以外の誰かを好きになるなんて、、、

…そんなの嫌だ…。

俺のちっぽけな独占欲

東司さんを離したくない。あの笑顔が俺だけのモノであってほしい。
俺を見ててほしい。あの大きな手で俺を包んでほしい。

…ずっと一緒に居たい…

俺は走った。息が切れるまでずっと思いっきり全力で、、、
どこに向かうのかも決めないで足が向かう方へと走った。

夕焼けで紅く染まった景色とは裏腹に風は冷たく、いつも首に巻いているものは無かった。





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