(かわいい…。)
そう思った。弟とかではなくて、一人の人間として傍にいてほしいと思った。
護ってやりたいと思った。俺のものにしたいと思った。

ダウンジャケットの中にいれた手は暖かいを通り越して熱かった。
小さなこの手がとても愛おしくてギュッと力を込めた。

少し歩くと突然直輝が思い出したように「ここです。」と言った。
最初は何のことか分からなかったけどここが直輝の家ということだった。

直輝がマフラーを外して俺に返そうとしたので、俺は手で制した。

「それ、直輝にやるよ。まぁ俺のお下がりがヤだったらどうしてもいいから。」
初めから遣るつもりだったし。
やっぱり直輝は最初断ったが俺がそれらしい理由を言ったら納得したのか押し切られた。

吹き荒れる秋風はもう冬の訪れを知らせていた。

―――その日はすぐに来た。

直輝の公立高校の受験日。私立は何とか受かっているから、もうどこにも行く高校がないという事態にはならないがやっぱり希望した公立高校に通ってほしい。

今日は図書館の仕事を休んで朝から部屋でニュースばかり見ている。
ニュースでは高校に中継が出ていて試験会場の様子を映している。

直輝が受けた高校が映されるとわかる筈もないのに、直輝の姿を探したりもした。

結局直輝の姿を確認できることもなく、入試が終わる時間になった。

今もまだ、TVの画面には同じような試験会場の様子が流れている。俺は立ち上がってキッチンへと向かった。

以前作ったようなスープを作るために準備をする。この前と違うのは人参がないということ。

適当な大きさに野菜を切っていく。鍋にコンソメを入れた水が温まったのを確認して野菜を入れる。
その頃にはTVに流れているニュースも入試のことから事故のことへと移っていた。

ひと段落して、椅子に座って一息しているとリズムよくインターホンがなった。

玄関へと向かいドアを開けると笑顔のあいつが立っていた。





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