そうするだけ
「それだけ」another side
ある日、俺は突然告白された。親友に…しかも男に。
自分の気持ちが分からなくて、心臓が破裂しそうなくらいの高鳴りをどうしたらいいか分からなくて俺は相談した。
『あいつから告白された』って
それがこんなことになるなんて思いもしなかった。
次の日からあいつはいじめの対象になった。なぜかクラス中の奴が知っていてこそこそ言っていた。
俺のせいだった。
噂のもとは相談した友達だった。
来る日も来る日もあいつはいじめられて表情すらも薄くなっていった。
俺は何もできずに目を逸らすことしかできなかった。自分もそうなることが怖かった。
ある日あいつが屋上に行くのが見えた。嫌な予感がした。
屋上のドアを開けるとそこにあいつは立っていた。今にも泣きそうな顔で…。
その顔を見ると俺は何も言えなくなってしまってじっとその場に立つことしかできなかった。
「僕ってそんなに気持ち悪い?」
その声は涙に濡れていた。
突然聞かれたその言葉は俺の胸に刺さり、俺には誤ることしかできなかった。
あいつは走ってきたかと思うとその勢いのまま俺を押し倒してきた。馬乗りにされて息が苦しい。
「ごめんってなんだよ。それなら、あの時あの場所でそう言えばよかっただろ!」
それでも俺は誤ることしかできず、俺はまた目をそむけてしまった。
首に手がかけられた。その手は小さく震えていた。一気に呼吸ができなくなる。
気が遠のいて視界がどんどん霞んできた。
その時頬に冷たいものが落ちてきた。それはあいつの涙だった。あいつは泣いていた。初めて見た泣き顔だった。
必死になって名前を呼んだ。気持ちを伝えたくて、想いを受け止めたくて…。
それはちゃんと声になっていたのか分からないけど、あいつは俺の上からどいてくれた。咳をする。
辺りを見渡すとあいつはもう柵の向こうにいた。
小さく何かを言って
一瞬のうちに
俺の視界から
消えた。
――――
告別式の日俺は線香と死の匂いが充満した部屋にいた。
あいつの親は人目もはばからず泣き崩れていた。学校からいじめの報告があったのだろうか制服姿をみると睨むように見つめていた。
俺も例外ではなかった。
それでもあいつは笑っていた。いつ撮ったか分からない写真の中でたくさんの花の中で…すごくきれいな顔だった。
その下にある魂のない肉体はあんなにも寒そうに凍っていたのに…。
俺は馬鹿だ。ただあいつには笑っていて欲しかっただけなのに…一緒にいるだけでよかったのに…。
いじめを止める勇気が、あいつの気持ちを受け入れる勇気が、好きだと言う勇気がなかった…
そうするだけであいつは笑ってくれたのに…
今も俺の隣にいてくれたのに…
今更どんなに願っても、叫んでも、涙を流しても…
それが叶うことは…もうない。
まぶたの裏に焼きついた最期の悲しい顔と、目の前にある写真の笑顔を見比べた。
俺は始まりへの一歩を踏み出さなければならなかった。罪を償うために。
手に入れたかったのに手を伸ばしもしなかった俺の罪を。
-END-
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