それだけ
好きだった。ただ、それだけだった。
この気持ちを伝えたくて受け止めてほしくて…
僕は思い切って告白した。君に…大好きだと。
「……」
君は何も言わずに僕の前からいなくなった。
次の日学校に行くと僕はいじめられっ子の仲間入りをした。
僕が教室に入るとみんなはこそこそ話し始めて、席に着くとそこには『ホモ野郎』と書かれていた。
すぐに分かった。君が僕のことを拒絶したんだと。
いじめられることよりも、その事実が…君に嫌われたということがショックだった。
僕を見ながら笑っているクラスメイトの中で君は僕に目も合わせてはくれなかった。
大切な想いだった。
ずっとずっと胸に秘めてきた想いだった。
それはこれからもずっと胸に秘めておくべきだったんだ。
そのことを初めて知った。…もう遅かった。
それからいじめは毎日続いた。学校には行きたくなかったけれど親には言えなかった。
「男の人を好きになっていじめられる。」
…そんなこと言えるはずがなかった。
だけど、教室に僕の居場所なんかなくて、よく屋上に行くようになった。
澄み切った空が頭上に広がる。こんな天気のいい日にここから飛び降りたら気持ちよく死ねるだろうか。ふとそんな事を考えてしまう。
試しに柵の近くに寄ってみる。
ガチャ
後ろでドアが開く音がした。振り返るとそこには君がいた。僕をちらっと見ると俯きそのままじっと立っていた。
「僕ってそんなに気持ち悪い?」
そう言うと君は小さな声で一言「ごめん。」そう言った。
この時僕の中で何かが切れた音がした。
気付いた時には僕は君を押し倒していた。
「ごめんってなんだよ。それなら、あの時あの場所でそう言えばよかっただろ!」
そう言っても君は僕のことを見ずにただ小さく「ごめん。」と呟いた。
自分が壊れてゆくのが分かった。
僕はそっと君の首に手をかけた。ゆっくりと力を込めてゆく。
君の体温を感じた。呼吸を感じた。生を感じた。
抵抗する君の力が弱くなっていく。
知らぬ間に僕は泣いていた。
「 」
声にならない声で君は僕の名前を呼んだ。そこでやっと僕は正気に戻った。
急いで君の上から飛び退く。
ぐったりした君は咳をついた。よかった僕はまだ君を殺していなかった。でも、もうだめだ。君のそばにいるといつか僕は君を壊してしまう。
僕は思い切って柵を乗り越えた。そこには大きな空が広がっていた。
この想いを伝えたかった。優しい君が…かっこいい君が…ただ、好きだった…。
それだけだったんだ。
初めは、いや今でもそれだけなんだ。
これは本当だから
「好きだよ。ごめんね。」
そう言って僕は終わりの一歩を踏み出した。
-END-
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