目の前の将は動揺したように視線を泳がせていた。
『私は席をはずすわね。』
そう言って谷崎さんは病室を出て行った。今、病室に居るのは俺と将の二人だけ。
「将、俺将が望むことなら何でもする。俺の力でできることなんでもするから、、、もう一度だけ信じてくれないか…?」
もう一度だけでいい。もう一度でいいから、、、
『塩田君、僕さ、分かんないんだ。手首切ったときやっとこれで死ねるんだって思った。だんだん意識が遠くなっていって、力も入らなくて寒くて――……なんていうかこの世から切り離されるような気がしたんだ。』
固い地面と冷たい風がそう感じさせたんだ。
『でも、最後にさ、走馬灯っていうのかな、、、思い出したんだ。晋也と一緒に笑って、ふざけあって、、、こんなだけの世界なら生きたいって。もう義父さんや、母さんが居る世界なら要らないって。我儘だよね…。』
笑った。将はそう言って辛そうに笑った。
「将、いいんだ。将はちょっと我儘言ってるくらいがちょうどいいんだよ。」
晋也はそういうとぎゅっと俺を抱きしめてくれた。久しぶりに感じる人の温かみ…。
晋也の体温が、逞しい筋肉が、僕の求めていたものが手に届く場所にある。
そっと背中に手を回すと晋也はさらに力を込めて抱いてくれた。
『晋也、今僕には晋也しかいないからさ、、、もうちょっとでいいから、もう少しだけでいいから縋ってもいい?』
「いつまででも俺に縋ってろ。俺も将を離さないから。もう絶対に将を離さないから。ちゃんと掴んでてくれよな。」
『…うん。』
もつれていた糸が解けていくような安堵感を感じた。
それは将だけじゃなく、晋也にも同じことだった。
「将、改めてよろしく。」
『こっちこそよろしく。』
将が顔をあげると晋也は口づけを落とした。