『じゃあ、君の両親に事情を説明して私と会う約束を取り付けてくれないかしら?』
俺は何の事だか分らなかったが、とにかく将を助けになるならと受け入れた。
それから谷崎さんと何気ない話をした後、児童相談所を後にした。
家に着くと、俺は家にいた母に将が受けてきた虐待やどんな生活を強いられてきていたのかを話した。
母はひどく驚いていたが、どこかそのことを知っていたように唇を強く噛んで涙を堪えていた。
谷崎さんの話を聞くと、母は父と相談してみるといって、自室へと戻って行った。
谷崎さんが家に来たのはそれから数日後だった。母と父と三人だけで話している。
聞こえてくるのは微かな話し声だけ、、、
蚊帳の外
そんな言葉が不意に浮かんだ。だけど、違うんだ。違うと気づいたんだ。
俺だけじゃ将を救うことなんてできない。周りの力を、、、将を護ってくれる人たちの力を借りるんだ。
将を護ってやるためにはこの方法が一番いいんだ。無理をしたって何もならない。
しばらくすると俺は部屋に呼ばれた。入ると父と母と谷崎さんの真剣な眼差しが俺に向けられた。
「晋也、座りなさい。」
父の低い声がやけに響いた気がした。
『将君が望むことがまず第一条件になるけど、もし将君が望んだらこの家に将君と一緒に暮らす考えってある?』
「はっ?」
『これから法的な手段で、将君の両親から親権を剥奪するの。そのあと将君をこの家に引き取ってもらおうと思っているの。君がいやなら将君は施設かどこか探して入ってもらうことになるけど…。』
「将がいいって言ったら…。将がいいって言ったら、俺はそれに従います。」
『そう。じゃあそういうことで。ご両親もよろしいですね?』
「はい。かまいません。」
父がはっきりそう言うと、谷崎さんはソファから立ちあがって手を差し出してきた。
『じゃあよろしくね。』
その顔は母の温もりに似た優しいものを感じた。
「はい!」
将を護る。もう将にさよならなんて言わせない。
俺は力強く握手を交わした。