僕が何も言わないでいても、君はずっとそこに立ちすくんでいた。
だから、僕は今できる精一杯の笑顔で君の方を向いて「ごめんね。」と言った。
晋也はきょとんとした顔を上げ僕の方を向いていた。そして、晋也の手は何かを掴みあぐねるかのように中を漂って、その後ぐっと力を込められた。
その拳はしっかりと握られたまま、すっと降ろされた。
「僕のことはもういいから、塩田君は帰っていいよ。」
『…いやだ。まだ居る。』
「大丈夫だって、もう塩田君に迷惑かけないし、もうこんなこともしないから…。」
だからもう帰ってよ。
じゃないと僕、もう少しで泣きそうだから。
『将、俺もう一回頑張ってみるから。だから、俺明日も、明後日も、その次の日もここにきていいか?』
「…もういい。」
『えっ?』
「もう塩田君は来なくていいよ。もう無理しなくていいよ。」
『いやだ。将がなんと言っても明日来るからな。』
俺は少し力を込めて言った。そして、それを捨て台詞にするかの様に、俺は病室を後にした。これ以上将と話しても水掛け論になりそうだったから。
今の将は何も受け入れてくれそうになかったから。
俺がそうさせてしまったから。
だから、俺が何とかしなくちゃいけないんだ。
例え将がもう俺を求めてくれなくても俺は、、、そうさせた責任があるから。
仕方がないんだ。
『はぁ。』
ひとつ息をついてから、再び歩き出した。少し傾いた陽に廊下は照らされ、真っ白に光っていた。
晋也が出て行ってから、僕は顔を固い枕に押し付けてほんの少しだけ泣いた。
そしてほんの少しだけ安らいだ気持ちを感じながら眠りについた。
陽の光が強い真昼の中だったけど、いつもの暗闇の中よりはゆっくりと眠りにつけた気がした。
ゆっくりと、ゆっくりと
貴方を求めたいという気持ちが溢れてくる気がした。