次に僕の病室のドアが開いたのは日が高く昇ってからだった。
入ってきたのは見慣れない女性と、、、晋也だった…。
晋也は少し気まずそうに、その女性の後ろに立っていた。
僕は視線を急に表れた見知らぬ女性に戻して言った。
「すみませんけど、どちら様ですか?」
その声は少し乱暴だったかもしれないけど、その女性は表情を崩すことなく柔らかい口調で返してきた。
『急にごめんね。私、谷崎郁って言うからよろしくね。』
そう言って綺麗に爪の切りそろえられた手を僕に差し出してきた。僕は一瞬迷ったけど、ゆっくりと手を差し出して握手を交わした。
久しぶりに感じた人の体温は少し強く握ると折れてしまいそうな細い手だった。
「で、何か僕に用ですか?」
『将君、正直に答えてほしいんだけど、お父さんとかお母さんに暴力とか振るわれてない?』
「………」
答えは一瞬で分かった。今、その女性の後ろに立っている人物、、、晋也がこの人に僕のことを言ったのだ。
きっと僕を憐れんでいたんだろう、、、同情でもしたんだろう。
誰からも愛されない僕を見て、、、自分が捨てた僕をみて、、、
『私ね、児童相談所ってところで勤めてるの。だから、将君のこと助けにきたのよ。』
もうそんな必要ない。だって僕は何もないから。家族も友達も、、、好きな人も…。
もしここを出たら施設か何かに連れて行かれるんだろうか。
それもいいかもしれない。僕を知る人はだれ一人としていない。そんな生活もいいかもしれない。いや、きっとそっちの方がいいに決まっている。
どうせ死ねないのならせめてもう苦しみたくはなかった。
共にした時間の楽しさより、裏切られる恐怖から逃げたかったから…。
君の辛い顔を見るなら、君の隣に居たくはない…。
もう、君の笑顔を見れないのならここにいる意味なんてないんだ…。