翌日の朝、先生は指定した時間ちょうどに黒の軽自動車に乗ってきた。
俺は車の助手席に乗った。俺たちが目的地に着くまで無言だったことは言うまでもない。

暫くして着いたのは白を基調とした建物だった。その建物の入口付近に大きく「児童相談所」と書いてあった。

そう、俺たちは今から将が今まで受けてきた親からの虐待をここの人たちに告白するのだ。
そうしたら、きっとここの人たちがあの親たちから引き離してくれる。

建物に入って少し待っていると、一人の女性が出てきて個室に通された。

『今日はどうされましたか?』

その女性はとても優しい声で尋ねてきた。

「率直にいうと、虐待を受けている子がいるんですが、、、」
先生がその女性に応対している。

『じゃあ、その子が受けているんですか?』

「いえ、この子は被害を受けている子の友達でして。」

『すみませんが、実際に受けている子を連れてきてはもらえませんか?この児童相談所と言うのは、実際は警察のように強制力を持っていないので私たちが直接行ってもその両親に拒否されれば何も出来ないんですよ。』

その女性は申し訳なさそうな声で言った。

「それが、、、その子は自殺未遂をして、いま入院しているんです。だから、ここに来るのは無理なんですけど、、、」

『もしかして、その子の名前は原野君ですか?原野将君。』

「そうですけど、、、」

『やっぱりそうでしたか。その家は前から近所の人から通報があって、、、それにもう小さくですがTVでも取り上げられていますし…。』

そうか、昨日病院にいたTV局の腕章をつけた人たちは将のことを嗅ぎつけていたんだ。
近所から虐待の疑いが掛けられていた家の子が自殺未遂したんだ。ニュースにするには恰好の餌食だろう。

『通報の度に出向いては居たのですが、親御さんの承諾が得られず、、、結局こんな形に…。すみません。』

「いえ、こちらも何もできずに…。」

『これからは私が担当いたしますのでこれからもお世話になると思いますがよろしくお願いいたします。えっと、、、遅くなりましたがこれ名刺です。』

名刺には『谷崎 郁(たにざき かおる)』と書いてあった。

『もう実際に将君の受けている虐待は公のものとなっています。ここまで大げさになればこちらも動けると思います。』

先生と谷崎さんは立ち上がると握手を交わした。

凄い。話が淡々と進んで言って、解決の方法を見出しているようだ。

俺は何も出来なかったのに、、、

改めて無力さを感じた…。

俺には何も出来ていないんだ。

俺が出来ないことを、この優しくて背が低い女の人がやってのけるんだ。

俺が救えなかった将を助けてくれるんだ。

嬉しいことのはずなのに、なんかちょっと悔しかった。
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