ドアは閉まっていた。
先生は最後に『何かあったら絶対に相談しろよな。先生は原野の味方になってやるから。』と言ったきり黙ったままだった。

ベッドのそばにある椅子に腰を掛けて俯いている。

僕はと言うとずっとドアを見つめていた。いつか晋也が入ってきてくれそうだったから。
ドアを勢いよく開けて僕のことを心配しながら、入ってきてくれそうだったから…。

だけど、ドアはぴくりとも動かなかった。

どんなに僕がドアを見つめていても、それが開くことはない。開く訳がなかった。

窓の外は暗いままで何も変わってはいなかった。

「ご両親とは、ずっと連絡しているんだがつかまらなくて…。家にも居ないみたいだしな。」

そんなの当たり前だ。僕のことなんか心配していないのだから。
今頃、家族三人水入らずで楽しくどこか旅行しているのだから…。

初めからあの人たちの中に僕の存在なんてものは無かったのだから…。

僕が唯一存在していたのは、今ドアの向こうにいるあの人の中だけだから。

僕は先生とドアに背を向けて目を閉じた。目を閉じると少しだけ涙が出た気がした。

「じゃあ、また来るからな。」
先生がそう言うと椅子を引く音が聞こえた。そのあとすぐにドアが閉まる音がした。

「…晋也…。」
呟いた愛しい人の名はじっと静寂を保っているこの空間にそっと消えた。

眼を閉じれば、このまま眠りに落ちてしまえば、『明日』はきっとやってくる。
朝日が昇って、鳥の声が聞こえて、空気が澄んでいて、この時期の厳しい寒さを感じるんだろう。

だけど、そこには君はいない。

君の笑顔はない。

君の、、、ドアの向こうにいたはずの君の存在はないのだろう。

それなら明日なんて来なくていいと思った。ずっと、このまま時が止まればいいと思った。

いや、正確にはあのころで止まればいいと思った。

君がいた時間。君と居た時間。
隣に君が居て、笑っていて、手を握っていて、遠くを、、、ずっと遠くを見ていた時間。

その時間で止まるのなら、僕は明日なんていらないと思ったんだ。

だけど、僕は何も知らなかったんだ。全てのことに気づかなかったんだ。
母のことを知らない先生がさっき『ご両親』と言ったことも、先生が帰った後じっと晋也がドアの内側に立っていたことも、、、
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