暫くして来た看護師が驚いた顔をしてナースコールを押した。
少しして白衣を着た中年の男の人が入ってきた。

その人は僕の体中を調べて最後に、僕に質問した。

「気分はどうかな?」

僕は答える気力はなかった。それでも、もし答えるとしたら最悪な気分だということだ。

本当に最悪な気分だった。全身を包む倦怠感に、腕に感じる痛み。そして、まだこの世界の中にいるという絶望。

僕が答えないということがどう思われたのかわからない。いや、きっと無愛想な子供だとでも思われただろう。

白衣を着た人を中心に看護師も病室から出て行った。

外が見えるはずの窓は暗闇に染まっていて何も見ることは出来なかった。

部屋が沈黙に包まれる。

これからどうしよう。ここのお金は誰が払うんだろうか。やっぱり弥生子さん達が払うんだろうか。
あぁ、また迷惑かけることになるのか。もう迷惑はかけないって決めたのにな。

それなら、一日でも早く僕は死ななくちゃいけないな。

どうせ僕のお見舞いになんて誰も来ないだろうから、ここから僕が居なくなっても困らない。
あ、病院の人は困るかな…。仕事だし、、、

だけど、喜ぶ人の方が多いだろうな。僕が死ねば生命保険だって弥生子さん達に入るし、病室が一部屋開くことで、新しい誰かが助かるかもしれない。

それに、晋也も笑ってられるよね。クラスの皆と思いっきり、剣道部の人たちと思いっきり、そして、、、

そして、僕以上に大好きな人と

―――笑えるんだよね…。

僕と居た時以上に幸せを感じて、僕に言った以上に想いを呟いて、僕に向けた以上の笑顔で、僕がともにした以上の時を歩んでいくんだろう。

僕のことなんか忘れて。

僕のことなんか置いて行ってしまうんだろう。

そして、君の中に僕の存在はなくなる。

僕が大好きな人は僕のことを忘れて幸せになる。それでいいんだ。

それでいいけど…




―――そうじゃなかったらよかったな。
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