でも、俺が望んだ次は最悪の結果で訪れた。

部活から帰ってきた直後だった。母が電話対応をしていた。

「あっ、今帰ってきました。変わりますね。」
母は一瞬困ったような顔をして、俺に電話の受話器を渡した。

「もしもし?」

『塩田か。いいか、落ち付いて聞けよ。』
いつも聞き慣れているはずの担任の声がいつもと違う機械的な声で聞こえてきた。

「どうしたんですか?」
俺は知らず知らずのうちに口に溜まった唾を飲み込んでいた。一瞬間が空いたと思うとさっきの声色と同じ調子で言葉が紡がれた。

『   』

俺は分からなかった。先生が言った言葉を理解できなかった。いや、理解したくなかった。

それでも、受話器からは話をする声が聞こえた。

『塩田。お前原野と一番仲が良かっただろ。今は整理がつかないと思うが、何か原野から聞いていなかったか?』

担任は心配そうな声を出して聞いている。それも結局は電子音でしかなかった。

そう、俺は聞いていた。将から聞いていた。親から虐待を受けていることも、母親が帰ってきた事も、全部聞いていた。それなのに俺は何もしなかった。

ただ見ているだけ。話を聞いていただけ。
護るって言っておきながら俺は何も出来なかった。

俺は知らない間に受話器を置いていた。
信じたくない。でも、信じなければいけない。
俺の所為だから。俺が将を追い詰めてしまったから。
謝って許されるのなら何度でも謝る。だけど、謝って許されないだろうから、きっと将は許してくれないだろうから。

俺は今走っている。

『原野が山林の中で腕を切った状態で見つかったそうだ…。親御さんにも連絡したいんだが連絡がつかなくてな…。今病院に運ばれて、、、』

市内の大きな病院だった。そこは夜になっても光がともっていて明るい。

でも今の俺にはその光を綺麗だと思う余裕はなかった。

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