イヤだった。自分の無力さを感じるのが嫌だった。

好きな人をこの手で護ってやれない事実を押し付けられるのが耐えられなかった。

将はいつも笑っていた。俺と話すときも、何をしていても笑ってた。

頬に青いアザを作ったまま笑っていた。痛々しいほどのその表情は俺の心に罪の意識を作り出した。
俺には何も出来ない。将を護ってやることなんて出来ない。俺が将を縛っている。

ナニモデキナイ

お前には母親も帰ってきただろ。これで義父からの暴力も収まるだろ。俺がお前を苦しめている。そう思い込むことで俺は逃げた。

分かっていたのかもしれない。一度子供を捨てた母親がどう接するか、、、義父が将のことを愛していないという事実は変わらないこと、、、

だけど、俺は弱かった。目の前で好きな人が擦り切れていくのを見るのは耐えられなかった。
かといって、俺に事態を打開するような力はない。知恵もない。

結局俺が将を護ってやるなんてただの自惚れだったんだ。

最近将は学校にも来なくなっていた。その将がさっき学校に来ていた。

グラウンドでサッカーをしていた俺は気づかなかったけど、友達の話では少し前から居たらしい。
将は俺を見ると縋るような眼で俺を見てきた。それなのに他の奴には笑って話していた。

それが嘘だって知っていたのに、、、将が本当に心から笑っていないってことは分かっていたのに。

今の俺の心にはそんな余裕はなかった。

俺は将に背中を向け靴を履き替え、校舎のなかに入った。後ろから将の視線が感じられた。

そんな目で見るなよ…。

俺が悪いのかよ…。

俺以外にも人はたくさんいるだろ…。

何で俺なんだよ…。

俺だけが背負わなきゃいけないのかよ…。

この時俺は忘れてたんだ。最初は俺だったんだってこと。
将が俺を選んだんじゃなくて、俺が将を選んだってことを。俺は将のことが好きだってことを。

将が俺にとって護る対象であると同時に、愛すべき対象であったということを。

俺だけがお前にとって寄り所だってことを、、、

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