晋也の家を後にしてすぐに僕は一番近くの駅へと足を運んだ。
家から持ってきた、今まで義父には言わずに貯めてきた余った生活費を使って、一番料金が高いところのボタンを押す。
出てきた切符を改札に通して構内へと入る。
会社帰りの人であろうか、たくさんのスーツを着た人がせわしなく行き来している。
電車に乗り込み空いていた座席に腰を下ろす。長い間電車に揺られて着いた先は一度も来た事がない見知らぬ街だった。
ここになら僕を知っている人は誰もいない。
ここでなら、、、
僕はとにかく足を動かした。ここよりもずっと静かなところがいい。
もっと人気のないところがいい。
もう僕はイヤなんだ。孤独を感じることも、暗闇の中に生きていくのも、悲しみに押しつぶされるのも、、、
君がいない世界で生きていくなんて僕には出来ないんだ。
だから、もう僕は諦めることにした。幸せを求めることを、、、生きていくことを、、、
ひたすら歩いてついた場所は木が鬱蒼と立ち並んでいる、ひっそりとした林だった。
ここならいいと思った。ここで終わりにしよう。
ここならきっと誰にも悟られることなく死んで、体は朽ちて土に還っていくだろう。
そして、僕の存在は完璧に消えていくんだ。
出来ることなら僕のことを思い出に残してほしい人はいる。
でもその人はきっと僕の存在を思い出に残してくれるほどお人好しじゃない。
嫌いな僕のことなんて覚えておくだけ無駄なんだから、、、
写真もない。思い出の品もない。…何もないけど。
この頭の中に残っている記憶だけは、、、この肌に残っている君の温もりだけは本物だったと思いたい。
たとえそれが「過去」のモノであっても…。そこにあったのは事実だから…。
それだけ持って行こう。
そうだ、そう言えばTVで言ってたな。『あなたには守護霊が憑いていますよ』そんなの信じたことないけど、今回だけは信じたいな。
君を悲しませずに、君を護ってあげられるなら、君の傍にいることができるのなら、、、
死ぬのも悪くはないな。
ポケットから鋭利な刃のついた工具を出す。それが手首に当てられて温かさを感じるのに時間は掛からなかった。
赤いものが腕をつたって滴となり地面に落ちていく。
あぁ、晋也の温もりもこんな風に温かかったな。君の手も声も胸もこんな風に温かだった。
ねぇ、晋也。僕のことそんなに嫌いだった?迷惑だった?聞く勇気を僕は持っていないけど、聞いてみたかったな。
もし、、、もし僕が生まれ変われて君に出会うことが出来たら君は僕に笑いかけてくれるかな。
好きにならなくてもいいから君は笑ってくれるかな。
僕は君の傍に居てもいいかな…。
この命は諦めるからさ、、、