見慣れた和風の一軒家が見えてきた。もう、日は西に傾いていた。
何度押したか分からないインターホンを押すと、晋也のおばさんの声が聞こえてきた。
『はい、どちら様ですか?』
「えっと、、、原野です。」
何と言えば良いのかわからなくてそれだけ言うとドアが開き見慣れた顔が出てきた。
「原野くん、早いのね?まだ晋也は帰ってきてないわよ。部活だと思うけど、、、」
「あ、いいんです。ちょっと家まで取ってきてほしいって言われたから来ただけです。ちょっと上がらせてもらえますか?」
自分でも分かりやすいバレバレの嘘だと思う。それでもおばさんは疑うことなく「悪いわね。晋也ったら帰ってきたら怒ってやるから。」と言って笑いながら快く受け入れてくれた。
少しだけ胸が痛んだ。僕はこんなに優しいおばさんにまで嘘を吐いているんだ。やっぱり僕はいけない人間なんだ…。
そう思った。
「お邪魔します。」
そう一言だけ言って一目散に晋也の部屋へと向かった。
ドアを開けるとそこには相変わらず剣道の道具がたくさんあった。
そのほかにもベッドや流行りの漫画がたくさん立ててある本棚やちょっと散らかった机、少し毛布がめくれたままのベッド、、、たくさんのものがあった。
今にもどこからか晋也が出てきそうなほどそこには生活のにおいがあった。
その中の一枠にあのコルクボードが存在していた。
最初見た時よりも写真の数は増えていて、晋也の歩みが伺えた。
…けど、そこには無い…。
いくら探してもない。どこにもない。他の写真に紛れているのかと思ったが、、、無かった…。
僕と晋也が撮った写真。晋也ならまだ貼ってくれていると思い込んでいた。
そうだよな。嫌いな奴の写真なんていつまでも貼ってるわけないよな、、、
代わりに貼られていたのは、僕の知らない友達と笑って肩を組んで撮った写真。
幸せそうな君の顔。
そこにはそれが溢れていた。それもそのはずでこのコルクボードは晋也の幸せの軌跡なんだ。そう自分で言ったじゃないか。
それに僕はいないだけ。僕はそこに存在していないだけ。
当たり前だ。僕は晋也に嫌われているんだから。僕が晋也の幸せに加わろうなんて浅はかな考えだったんだ。
君が嫌いな、、、大嫌いな僕から君への最後の想い。
「じゃあね。大好きだったよ。君のためなら何でもするよ。」
「…たとえ死ぬことも…」