とにかくここを出よう。早くここから立ち去ろう。
僕はここに居ちゃいけないから…。
僕がここにいると晋也が笑えなくなるから。
ごめんね、晋也。
今まで迷惑ばかりかけて。
僕、晋也に何も出来なかったし頼ってばかりだったけど、、、もう迷惑かけないからね。
そのかわり僕の分までたくさん笑ってね。たくさんの人と一緒に幸せになってね、、、
僕はもう君に話しかけないから、、、僕はもう君の視界に入らないようにするから、、、
だから、せめて君だけは幸せになってね…。
これが僕から君への最後のわがまま。これが最後だから聞いてくれるかな…。
本当は、、、
本当は一緒に笑っていたいけど、
話していたいけど、
同じ時を同じ場所で過ごしていたいけど、
幸せを共にしたいけど、、、
もういいんだ。我慢するから。最後のわがままくらいは聞いてくれてもいいよね…。
僕のことを知っている人がいないようなどこか遠い所に。そのためには、、、
あそこに行かなくてはならない。今まで望んで行こうとはしなかった真っ暗な場所に…。
それから僕はどんな道を通ってきたのかわからないほど、憔悴していた。
その場所についた頃には日は高く昇っていて、頭の上には明るく輝いているはずの太陽があった。
もう、今の僕には鈍く灰色に霞んでいるような気がした。
ついこの間までは普通に出入りしていた家はどこか今までとは違う雰囲気があった。
ドアを開けようとしても鍵が閉まっていて開くことはなかった。
ポケットから取り出した合鍵を鍵穴に差し込んで捻ると、ガチャという音とともに鍵が開いた。
玄関には今まで見たこともなかった花瓶や来客用のスリッパなどがあってとても華やかだ。
まるで僕が居なくなったからこの家に幸せが舞い込んできたようだ。
家の中には当たり前だが誰もいなかった。リビングに入ると三脚の椅子が並べられていて、箸立てには3対の棒が立てられている。
ふと、目をやるとカレンダーに赤いペンで「家族旅行」と書かれていた。
そっか、弥生子さん達は家族旅行に行っていて居ないのか…。
いいな、家族旅行…。そう言えば僕、一度も家族旅行なんて言ったことないな。
旅行どころか遊びに行ったことすらないな、、、母とも義父とも実の父とも、、、
我慢。我慢。僕はもう我慢するって決めたんだから、これぐらいのことは我慢しないと。
そう、我慢しないといけないんだ。
2階へ行って自分の部屋だったところのドアを開ける。そこには今まで使っていたベッドや机がある。
そのはずだった。