白球が迫ってくる中、貴博は諦めなかった。
ここで打てなかったらもう終わりだ。
貴博はそう思っていた、反射的にここまでバットを振ってしまったら止めることは無理だと思った。
それに、次にこのスピードの球が来ても打ち返す自信はない。
白球が目の前に来た。
「っ!」
貴博は詰まりながらもバットを振った…。
「先輩なら打てる。」
あの日の姿と重なっている今の先輩の姿を見ながら、僕は小さく呟いた。
「裕也今何か言ったか?」
「ううん、何でもない。」
先輩はきっと打ってくれる。あの日、みんなが諦めていた白球を追いかけると言うことを諦めなかったように
このピッチャーが投げた球に喰らい付いていき、そしてそのままピッチャーの頭上を飛び越えてボールを緑の芝に運んでくれると信じている。
やがて先輩が振ったバットがおりてきた。
それは一瞬のように短くも一生のように長くも感じた。
そしてバットとボールがぶつかるであろう『その時』が近づいてきた…。
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