いつもより重く感じる足を引きずりながら晋也の家へと向かう。
通い慣れたはずの道は、いつもより黒く澱んでいて灰色に霞んで見えた。
その道のりは長く感じた。どこまで行っても着かない気がした。
いつまで歩いてもその時が来ないような気がした。
それでも僕は歩き続けた。ただ一人僕を求めてくれる人の下に行くために…。
いろいろな考えが渦巻き続ける中、その場所はやっと見えてきた。
そこは周りの風景よりも明るく見えて見ている僕を無意識のうちに引き寄せた。
今の僕には他人の迷惑なんて考えることが出来なかった。そして、僕は何の躊躇いもなくインターホンを押した。
『はい、どちらさまですか?』
暫くしてインターホン越しに声が聞こえてきた。その声は紛れもなく晋也の声だった。
僕はそれだけで涙が出そうになって、返事をすることは出来なかった。
ガチャリとインターホンが切られる音がしてすぐにドアが開く音がした。
「将?」
暗闇の中、ドアから溢れる光の中に晋也は居た。
晋也僕の姿を確認すると近づいてきて「どうした?」と小さく囁いた。
それでも僕が何の答も出さずにいると晋也は困った顔をして僕の手を握った。
「とにかく家に入れよ。外寒いだろ?」
連れてこられた部屋はいつもの晋也の部屋。いつものように綺麗に片づけられていてコルクボードにはあの写真が貼られている。
暗闇が一瞬にして明るく光った。晋也は電気をつけると驚いた顔をした。
「大丈夫か!?将!」
そう言って晋也は僕の頬をさすった。熱を持ったその場所に冷たい手の心地よい温度を感じる。
「将!大丈夫かって聞いてるんだ!」
晋也の大きな声で思わず肩がビクッと震えた。
晋也だってことはわかってる。義父ではないことは分かっている。
でも、、、それでも怖かった。
頬を撫でているこの手が、、、耳をつんざくこの声が、、、目の前にいる愛しい存在が、、、
怖かった。
そして、僕が咄嗟に言った言葉は「ごめんなさい。」だった。