『息子じゃない。』
母の言葉は僕の心に深く突き刺さって抉るような痛みを感じた。
じゃあ僕は何なんだよ。母さんの子じゃないならだれの子供なんだよ。
僕は誰から生まれてきたんだよ…。『原野将』という存在はどこから来たんだよ、、、
「お母さんいじめたらダメなんだよ。」
ドアから少しだけ顔を覗かせた剛弥君が悲しそうな顔をしてこちらを見ていた。
「剛弥は優しいね。お母さんは大丈夫だからね。」
母はそう言って剛弥君を連れて部屋の中へと入っていった。
「出ていけ。」
義父は短くそう言うと母と同じく部屋の中へと消えた。僕が一度も入ったことのない空間へ…。
『お母さんは…』
そうだ。
最初からそうだったんだ。
僕なんか最初から息子と思っていなかったんだ。
母は、剛弥君に対して自分のことを『お母さん』というのに、僕に対してはいつも『私』だった。
最初からずっとあなたは僕のお母さんではなかったんだ。
僕は要らなかったんだ。
僕は居ちゃいけなかったんだ。
やっぱりここは僕の居るべき所ではなかったんだ…。
僕の存在はここには無かったんだ。
僕はゆっくりと立ち上がって、玄関に向かい靴を履いた。走って家を飛び出す気力はなかった。
ひどく重く感じるドアを開け、肌寒い風が吹いている外へと出た。
中途半端に気持ちを許してしまうからいけないんだ。
こんなことなら何もしなければよかった。
初めから期待しなければよかったんだ。
何も求めなければよかったんだ。
最初から1人だったんだから、何もなかったのだから、母なんて必要なかったんだから、、、
…晋也…
結局、僕には晋也しかいないんだ。晋也しか僕を必要としてくれる人はいないんだ。
僕はたった一人のためにしか生きていないんだ。でも、それでもいいと思った。
晋也がいればいいと思った。晋也が僕を求めてくれるならいいと思った。
そう思うしかなかった。
今の僕はそう思うしかなかったんだ…。