「今、あの先輩こっち見てなかったか?」
「そんなわけないよ。」
けど、確かに今先輩こち見た気が…。気のせいだろうけど。
本当に先輩がこっちを向いてくれたらいいのに。
裕也は小さくため息をついた。
「確かあの先輩って委員長だったよな?あんなに小さいのに3年生なんてびっくりだよな。」
良太は裕也の貴博への第一印象と同じ事を言った。
「そうかな?かっこいいと思うけど。」
自分と同じ第一印象だったけど良太に反論してみた。
「かっこいいと言うよりかわいいの方があってると思う」
確かに先輩は背も低く童顔なのでかっこいいと言うよりかわいい部類に入るだろう。
だけど、あの試合のあのプレーを見たとき、あの泥だらけの姿を見たとき、
僕は憧れのような尊敬のような自分でもよくわからない感情を抱くようになった。
そして、その時の先輩の姿がいまバッターボックスに立っている姿に重なった気がした…。
貴博が構えるとピッチャーはキャッチャーから何かサインが出たのか、数回首を横に振った。
ようやくピッチャーが首を縦に振った。
さっきよりも気を張って構え直す。
ピッチャーが大きく振りかぶった。その直後白球が飛んで来る。
バットを思いっきり振る。
「ファール」審判が大きく手を挙げた。
1球目はファーストの頭上を大きく越えて右に反れてしまった。
ピッチャーの方に向き直る。
今度は1度で首を縦に振った。そして1球目と同じように大きく振りかぶる。
白球がさっきと同じコースで飛んで来る。
さっきと同じ球とは思えないほど速いスピードで…。
「っ!」
先輩のもとに投げられた球は先程と比べ物にならないほどの速さだった。
「速っ!」
良太も珍しく驚いていた。
ここにいる全員がバットに当てる事も出来ないだろうと思った。
ある1人、いや2人を除いては…。
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