僕は晋也と別れてからすぐに家路についた。
やっぱり晋也は温かかった。いつでも僕を包んでくれた。
晋也に会うといつも実感する。僕の帰る場所はここなのだと。
今日、帰ってすぐに言ってみよう。呼んでみよう。「お母さん」と、、、
足取りは相変わらず重かったけど、しっかりと前を見て歩くことができた。
真黒な風景の中、家庭の光が漏れている。その中に自分の家もあった。
いつもは真っ暗なのに、母がいるからか周りの家よりも明るく見えた。
玄関の前に立って深呼吸をする。ドアに手を掛け重い扉を開く。
靴を脱いで中に入る。中からは剛弥君の楽しそうな声が響いていた。
「お母さん!このグラタンおいしいー!ねぇお父さんもそう思うよね!」
「ああそうだな。やっぱりお母さんの料理が一番おいしいな。」
「そんなことないわよ。2人とも褒めすぎよ。」
幸せそのものだった。幸せで温かいものがそこにはあった。そのことがより一層僕に部屋に入ることを躊躇わせた。
それでも、僕は部屋に入った。晋也が言ってくれたから…。
入った瞬間先ほどの幸せそうな会話はぱたりと止み、全ての視線が僕に集められた。
義父は相変わらず怒りを込めたような視線で、母はというと僕がそこにいるのが信じられないかのような驚いた感じだった。
立っているだけで罪悪感を持ってしまう。
僕が勇気を振り絞って口を開こうとした時だった。義父が剛弥君に部屋に入ってなさいというと剛弥君は素直に頷いて義父の自室へと入っていた。
「遅かったわね、将。ご飯は食べてきたの?」
母がこの空気を壊そうとしてわざと関係のない話をする。
それでも僕は言わなければならなかった。最後の望みなのだから…。
「…お母さん。僕、私立の高校に行きたいんだ。お金のことは奨学金でなんとかなるかもしれないから、西高受けさせて下さい。」
僕は深々と頭を下げた。
「おい。」
とても低く短い声が聞こえて顔を上げたと同時に強い衝撃が走った。