泣いている将を自室に入らせて座らせる。その間、将はずっと俺の制服の裾を握っていた。
「で、どうしたんだ?」
将がある程度落ち着いたところで話を切り出す。
「ごめん晋也、、、僕、一緒に西高行けそうに、、、ない。」
将は涙を拭いながらそう言った。最初は理解できなかった。将ほどの頭があれば、西高は合格できるだろう。
その証拠にこの前行われた志望校判定テストでA判定を取ったと言っていた。
だけど、将が抱えている問題はそれ以前の問題だった。
「僕、西高、、、受けられない。義父さんが受けさせないって、、、公立に行かせるって、、、」
「泣くなよ、もう一回頼んでみろよ。わかってくれるかもしれないだろ。」
そう言っても将はいつまでも泣き続ける。
「それに、、、あの人も帰ってきたんだ。僕のこと捨てたのに、、、父さんと再婚するって、、、」
「はっ!?将何言ってんの?」
「母さんが帰ってきて父さんと再婚するって、、、子供もいた…。」
将のお母さんが帰ってきた。そして、再婚。それに加えて子供?
話が飛躍しすぎている。馬鹿な俺の頭では理解するのは難しそうだ。
だけど、ここで俺が戸惑っていたら将を護ってやるなんてことはできない。
そこでいい案を思いついた。
「将、それなら西高のこと母さんに頼めばいいんじゃないか?将が息子だってことは変わりないんだからさ。義父さんがダメでも母さんなら、、、」
「僕もそう思って言おうとした。でも父さんの目がそんなことさせないって目だった。」
「言ってみないと分からないだろ!」
「どうせダメだよ。あの人も結局僕のことなんか息子と思ってないから、、、弥生子さんはあの剛弥って子だけが息子なんだよ。」
「弥生子?」
「…母さんの名前…。」
「将、お前親のこと名前で呼んでんの?」
「だって、最後にお母さんって呼んだの覚えてないほど前だから…。それに僕もあの人のこと母親って思ったことないから…。」
「将、お前の気持ちもわかるけどこの『お母さん』って呼んで思いっきり甘えてみろよ。そしたら変わるかもしれないだろ。将がそんなに他人行儀するからあっちもどう接したらいいか分からないんだよ。」
将は少し困ったように俯いて小さく「わかった。」とだけ呟いた。
俺はこれでいいと思っていた。これで何とかなると思っていた。
これが最悪な結果を招くとは知らずに俺は将を抱きしめていた…。