体力が限界に近付いてきた時、目的地は見えてきた。純和風の瓦屋根の家。
僕は戸惑うこともせず、インターホンを押した。
程なくして聞こえてきたのは晋也の母親の声だった。
「原野です。晋也君いますか?」
僕は今まで体力が限界に近かったとは思えないほど冷静に言った。
「あら、原野君。ごめんね。晋也はまだ部活で帰ってきてないのよ。どうする?中で入って待っててもいいわよ。」
「あ、いいです。適当に時間つぶしてまた来ます。」
「そう、、、ごめんね。」
「いえ。じゃあまた来ます。」
そう言って僕は晋也の家から一番近い公園のベンチに腰を下ろした。
さっきは適当に時間つぶすなんて言ったけど、今は何か他のことをする余裕はなかった。
ただただ晋也の帰りを待って暗くなった空を見上げるだけ。
空はどこまでも続いていて無限の広がりを感じた。
よく、空を見て自分の抱えている問題は空から見たらちっぽけなものだ。と言う人がいる。
けれど、僕はそんな事思ったことはなかった。
空から見て僕の抱えている問題どんなにちっぽけに見えても関係ない。その問題を抱えているのは自分自身だから、違う視点で見ても仕方がない。
受け入れることと理解することは違う。
母と義父が未だにお互いのことを愛していることも。
その結果があの剛弥という少年だということも。
僕は愛されていないんだということも。
全部理解している。でも受け入れたくない。知っている。でも分かりたくない。
「…晋也、、、早く帰ってきてよ…。」
誰かを求めていたかった。誰からか求められていたかった。
誰かに触れたかった。誰かに触れられていたかった。…温もりが欲しかった。
だから、この時僕の名前を呼ぶ声が聞こえた時、、、晋也の声が僕の名前を呼んだ時本当に救われたんだ。
僕は本当に嬉しくて笑って顔を上げた。