いつものように出来るだけ音が立たないようにゆっくりとドアを開ける。
いつもの玄関。そのはずだった。
目に入ったのは見慣れない女物のブーツだった。
初めてだった。義父は母のことは本当に愛していた。
ただ、少し独占欲が強かったのがいけなかったために母は義父から離れて行ってしまった。
しかし、義父はいつか母が戻ってくると言い張って他の女性を家に連れ込んだことはなかった。
それ故、本当は捨ててもいいはずの僕は母との繋がりということで今もここに住まされていた。
それなのに今ここに見慣れない女物のブーツがある。義父はとうとう母のことを諦めたと思った。
それと同時に、それなら僕も要らないはずなのに、何故僕を縛るのだろうとも思った。
そんな事を考えながらゆっくりとリビングのドアを開けた。
ソファには義父と向かい合って座っている女性の姿があった。こちらに背を向けていて顔を見ることはできない。
それに、義父は僕が自分の客にかかわることは極端に嫌がる。だから僕はそんなに興味を持つ素振りをすることなくいつものようにキッチンに入った。
そこにもいつもと違う光景があった。
いつもはあるはずのないたくさんの食材がそこには並べられていた。
義父が買ってくるはずはない。そう思って顔を上げると、カウンターの向こうに振り向いた女性の姿があった。
その女性は同級生の親の誰よりも綺麗で自慢だった、そして、僕を捨てた母だった。
「お帰りなさい、将。」
「…た、ただいま…」
もう何年も言ったことのないなれない言葉を口にすると、少し母は笑ったように見えた。
「私ね、剛さんとよりを戻すことにしたの。」
はっ?意味が分からない。
剛と言うのは義父の名前だ。いきなり出てきて再婚?どうしてそんなに急に話が飛ぶんだ?
「それにね、もう少しで分かると思うけど、、、」
その時、ドアが今までに無いほど元気な音を立てて勢いよく開いた。