「えっ?」
担任は驚いたように義父に顔を向けた。
「何度も言わせないでください。将は公立高校に行かせます。私立には行かせません。」
「でも将君は西高に行きたいと言っているんですが、、、それは承知の上ではなかったのですか?」
「十分話しあったつもりでしたけどね。とにかく将は公立高校にしか行かせません。」
「将君はそれでいいのかい?」
担任が俯いている僕の顔を覗き込みながら言った。僕は答えに戸惑って何も言うことは出来なかった。
いや、僕が答えを出すことは許されなかった。
「今日のところはここで終わりにしましょうか。もう少し話し合ってみて下さい。将君もそれでいいね?」
「…はい…。」
義父はいち早く席を立つと足早に教室を後にした。僕も教室を出ようとした。
その時、後から担任に声をかけられた。
「これ、一応奨学金についてのプリントだから。お父さんと話し合って決めてきなさい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
僕は一礼をして教室を出た。
もうそこには義父の姿はなかった。そこにあるのは夕焼けに染まった静かな廊下が伸びているだけだった。
いつも聞こえてくる運動部の声も今日は聞こえなかった。
ひっそりとした廊下に自分の足音だけが響く。この世界に自分だけしかいないような錯覚に陥る。
嫌だ。孤独は嫌だ。ふとついこの間まで、いつも感じていた孤独が遠い存在になっていたことに気づく。
「…晋也。僕も一緒に行きたかったなぁ。」
窓から見える赤と青の空は次第に滲んで僕の頬に温かいものが流れるまでに時間はかからなかった。
ゆっくりと重い足をただ前に動かした。きっと今日も待っている暗い場所へと帰るために。
ぼんやりとした廊下は永遠に続いているかのように長かった。
それでも僕は思った。この長い道の果てには、、、きっと君は……。