「そういえば、明日の夜には帰ってくるって言ってたかもしれないな。」
『本当に!?』
あぁ、何でそんなに嬉しそうなんだろうか。ただあの人が帰ってくるというだけなのに。
俺がずっと一緒に居てもそんな顔しなかったのに…。
「あぁ、竜也が4日間とか言ってたから多分明日には帰ってくるんじゃないか?」
だからせめてあの人がいない今日ぐらい俺のこと見てくれよ。あの人を心から追い出してさ。
でも、まぁ無理そうだな。だって今裕也は先輩のことで頭がいっぱいなんだろうから。あんなに顔を紅潮させて、ここじゃないどこかに想いを馳せている。
「なぁ裕也。今日家に泊まりに来ないか?今日親もいないし暇なんだよ。」
『う〜ん、いいよ!けど、着替え貸してくれない?一回家に帰るの面倒だし。』
「それはいいけど、おばさんは大丈夫なのか?」
『電話すれば大丈夫。じゃあ早速着替えていこう。』
何の警戒もなく、裕也は快諾した。当たり前だ。裕也は俺を信頼してくれているのだから、、、なんたって俺は裕也の『親友』だから…。
それからすぐに部室で着替えて俺の家へと向かった。
「適当にくつろいで待ってろ。今何か飲み物持ってくるから。」
『うん。わかった。』
本当にすぐだった。俺が冷蔵庫にあるお茶と棚に置いてあるコップを持って自分の部屋に戻ると、裕也が俺のベッドにもたれて寝息を立てていた。
規則正しく胸が上下している。きっと練習で疲れていたんだろう。
「…裕也…。」
呼びかけてみても何の反応もない。近寄ってみると、少し口を開けて無邪気な顔だった。
「裕也。」
再び呼びかけても何の反応もない。…これなら、今なら何をしてもばれない気がした。
そうだ。裕也が悪いんだからな。人の家に来ておいてそのまま寝てしまうなんて、気抜きすぎだろ。
自分の唇を裕也のそれに近づける。裕也の寝息が肌で感じるところまで来た。
無邪気で無警戒な裕也の寝顔。心臓が高ぶってうるさい。
『――…先…輩……―。』
さっきまでなっていた胸が苦しくなった。何だよそれ…。夢見てるのかよ。
俺と喋って、俺の家に居て、俺とずっと一緒に居たのに…結局裕也は夢でまであの先輩を求めるのかよ。
近くに見えていた裕也の顔が遠くなった。裕也のその無邪気な唇は俺のじゃない。今までもずっと、これからもずっと…。
「裕也、起きろ。」
裕也の背中を揺さぶる。裕也は眠そうに眼を擦りながら目を覚ました。
『ごめん良太。いつの間にか寝ちゃってた。』
「別にいいけど、そんな恰好で寝たら風邪ひくぞ。それに今日は見せたいものがあるんだ。」
『見せたいもの?何?』
俺は状況のつかめていない裕也をベランダに連れ出した。
「空見てみろよ。」
『空?』
そこには夜空に輝く星があった。
「今日は流れ星が流れるってニュースで言ってたんだ。確かこの時間がちょうどいいって言ってたけど。」
『本当に?じゃあ願い事考えなくちゃ。』
「ああ、そうだな。」
裕也。お前は何を願うのだろうか。いや、そんなことは分かり切っている。きっとあの先輩のことを願うんだろうな。
俺は、、、俺の願いは星には祈らない。きっと俺の願いがかなってしまったら俺は裕也を諦めないといけなくなるから…。
だって裕也はあの先輩と一緒になることが望みなのだろうから…。
俺の願いは、叶えたい反面、叶わないでほしい。それが俺の願い。
「裕也が幸せであるように」
-完-