「どうした裕也?暑いから日陰に行かないか?」
良太は暑そうに服の袖で汗を拭っていた。

「うん、そうだね。」
確かに暑い。もう7月に入って、梅雨も過ぎた今は真夏と言っていいほど暑かった。

2人は校庭の隅にある大きな木の影に入って腰を下ろした。

「裕也さっきから顔が赤いけど大丈夫か?」

「っ!?顔赤い?たぶん日に焼けたんだよ」

「気分が悪くなったらすぐに言えよ。…ちょっと飲み物買ってくるけど何かいるか?」

「うん、何でも良いからお願い。」

「じゃあ、ちょっとここで待っててくれ。」
良太は校門の前にある自動販売機の方に駆けて行った。

「顔が赤くなってるって、おかしいよなぁ。ただ憧れてる先輩見ただけなのに…。(それにしても良太は人をよく見てるよな。)」

良太はいつもそうだった。友達が気分が悪かったり、何か悩んでいるのに1番に気付くのは良太だった。
良太はいつもなんでも知っているようだった。

「まぁ、僕の場合はすぐ顔に出てわかりやすいだけなんだろうけど。」

それから5分もしないうちに良太は戻ってきた。

そうこうしているうちに試合が始まった。
竜也は体つきも良いのでポジションはキャッチャーだった。貴博はセンターだった。

「あれ、この前はショートじゃなかったっけ?」

「この前って竜也は試合出るのはこの試合が初めてだろ?」

「っ!そうだっけ」

「竜也が聞いたら悲しむぞ」

貴博のポジションが変わっているのを思わず口に出してしまった。
貴博が出た前の試合を見ていたら気付いたかもしれないが幸いにも良太は前の試合は見に来ていなかった。

「竜也には言うなよ!」

「わかってるよ。」

それからの試合はあまり頭に入らなかった。
良太が話しかけてきても相槌をうつ程度しかしなかったと思う。
貴博のプレーをずっと見つめていたから…。

そして3対2で負けている7回の場面に今日最後になるだろう貴博の打席が回ってきた。
2アウト、ランナー1,2塁の逆転のチャンスだった。

貴博は明らかに緊張した様子でバッターボックスに立った。大きな木の下を見ながら…。


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