「ごめん、泣いたらすっきりした。」
先輩は涙を拭って立ち上がった。夕日が映すその背中はとても綺麗で見とれてしまった。
僕が惚けていると先輩は僕の方に向き直りにっこりと笑った。

夕日をバックにしたその笑顔はよく映えた。きっとこんな先輩は誰からも好かれるんだろうな…。
誰にも渡したくないと思った。わがままだけど先輩を自分のモノだけにしたいと思った。

「じゃあ帰ろうか。」
先輩は帽子をかぶり直し歩き出した。僕もすぐに立ち上がって歩み寄った。

「先輩、僕の試合も見に来て下さいね。」

「うん。裕也が見に来ていいって言うなら迷わず行くよ。」

2人は歩いて行く。長い道を、、、夕焼けに染まったまっすぐに伸びた道を、、、
きっと曲がり角は来る。先が見えない道は来る。その時どうなるか分からないし、どうすべきかなんて分る訳がない。

けど、きっとその時は隣にいるから。僕の隣にはきっと居てくれるから…。

僕はきっと歩いていける。きっと、、、

―――数日後
2人はまたあの公園のベンチに座っている。

「終わっちゃったな。」
そうだ、もう終わったんだ。先輩の中学最後の夏も、僕の2回目の夏も終わったんだ。

結果はあっけなく出た。先輩は県大会ベスト8。僕は県大会初戦敗退。

その間お互いの練習が重なって試合を見に行くこともできなかった。
結果を知ったのはお互いメールでの報告だった。あっけない最後だった。

今日は最後の日。もう先輩は受験に専念しないといけないから、、、
受験が終わるまではさよなら

「じゃあ行くな。俺。裕也、また今度な。」
その「今度」というのはいつになるのだろうか…。いや、いつになっても大丈夫。

「僕、待ってるから。先輩が受験終わるまで我慢するから、、、終わったら、また…。」

「いやだな、、、そんなに我慢しなくてもいいよ。ちょっと位ならいいって。それより俺が我慢できないかもしれないし。」
先輩は笑いながらそんな事を言った。

そんなことないと思う。先輩は今まで野球ばかりやってたから成績の方はやばいと自分でも言っていた。
僕なんかが行ったら邪魔になる。それに塾に行くから時間帯があわないと思う。

けど、先輩のその言葉が本当にうれしかった。素直に笑えた。本当に行ってやろうと思った。

「なぁ裕也。待っててくれるよな。会えなくても、俺が卒業しても待っててくれるよな。」

「待ってやりますよ。ずっと、、、先輩こそ勉強さぼって浮気なんかしたら、、、」
そう言おうとしたとき不意に先輩の顔が近く見え、同時に唇に熱を持った柔らかいものが触れた。

先輩の顔が離れると耳元で囁く先輩の声が聞こえた。

「ありがと、、、絶対迎えに行くから。」

僕は待つ。いつまでも先輩が迎えに来てくれるまで。それまでずっと、、、

遠くまで蒼く澄んでいる空は夏の終わりを告げる冷たい風が吹き真っ白に太陽が光っていた。



-END-







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