うとうとしている先輩の隣に座って頭を先輩の肩にのせてみる。
それでも先輩は目を覚まさない。それどころか先輩の頭が寄ってきて結局僕の肩に先輩の頭がのることになった。

先輩の匂いが近くに感じられた。僕の大好きな人の匂い…。
顔をそっと撫でると、先輩は「…ぅん」とだけ言って手を握った。

まだ寝ている先輩の手は今までの練習を物語るマメやタコが沢山できいてザラザラとしていたけれど、とても愛おしかった。
一陣の風が吹き抜けると、先輩の体がぶるっと震えた。

それもそのはずで、先輩は試合が終わってからそのまま僕の所に来ていたのでロクに汗も拭かずに今にいたるのだから。

僕はもう少し先輩とこうしていたかったけど風邪でも引かれたら困るので、手をほどいて先輩の体をゆすった。

「先輩、起きてください。風邪ひいちゃいますよ。夏風邪は質が悪いですよ。」

「…もうちょっとだけ。いい?裕也…。」
いつの間にか起きていた先輩はそう言ってほどいた手を握り直した。
僕は返事をする代わりに握った手にしっかりと力を込めた。

「裕也、俺試合中怖かった。いつも緊張することはあるけど、、、なんか違った…。」
先輩の手の力がだんだんと強くなる。ざらざらとした感触が手に伝わる。

「何か怖かった。俺何も出来なかったらどうしようって思って、、、
裕也が見てるところでこの前見たいな失敗したらどうしようと思って、、、怖かった…。」
話している先輩は、もう涙声で声が震えていた。更に手に力がこもる。

「俺、竜也が言ってくれなかったら多分そのままだったと思う…。
俺わかんなくなった。裕也の試合見に行ってもいいのかな?」

「わかんないです、僕も…。…でも竜也がそうしてくれるなら僕にも居るから…。」

その時、貴博は裕也の友達の悲しい顔をした人を頭に思い浮かべていた。

その少年はいつも悲しい顔をしているようだった。笑っているのに笑っていない。
それなのに俺と裕也が笑うためにきっと我慢している。

そして、自分自身はきっとその少年に何も返すことはできない。返すことができることと言えば、、、

…それは裕也を諦めるということ…。それは俺にはできない。だから俺があの人にできることは何もない。

だから俺は裕也を精一杯愛す。大切にする。幸せにする。

失う日はきっと来るだろう。それは『死』と言う終わりかもしれないし、『失恋』と言う終わりかもしれない。
流れのままに変わっていく2人がどうなるか分からないけど、その別れが来るまで俺は裕也を愛し続ける。
あの人に恥じることのないようにしっかりと、力強く…。






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