俺は決心するように一呼吸間をおいて裕也を見た。
これから自分がやろうとすることが自分自身で許せない気がした。
そして俺は裕也に言った。竜也のことを考えすぎていることを。
それは自分にも言えることだとわかっているのに、、、
すると裕也はその綺麗な瞳に涙を浮かべとうとう泣きだしてしまった。
目の前で好きな人が泣いている。俺が泣かしている…。実際には俺のせいでは無いのかもしれない。それでも裕也が泣いているのは変わりない。
その時公園の外灯が消えた。辺りは暗く静寂に包まれた。それと同時に俺の想いも溢れ出してきた。
裕也を抱きしめたい。泣いている姿を見ていたくない。裕也の一番傍にいたい…。
俺は裕也に歩み寄ると両腕で裕也を抱きしめた。そして裕也からこちらの表情が見えないようにしっかりと頭を胸に押し当てた。
裕也がすすり泣く声が聞こえる。肩が震え押しつぶされそうな不安を感じる。
そうだ、俺にできることは、、、やるべきことは。裕也が笑うためには、、、
瞳に温かいものが溜まるのを感じた。それが流れ出ないように、気持ちがぶれない様に力強く言った。
「裕也、泣きたいだけ泣け。しっかり泣いてあの先輩に思いっきり笑顔を見せてやれ…。」
俺が裕也のためにやるべきことは、、、だからせめて今だけお前を抱きしめていたい…。
これが俺の最後のわがままだから、、、
「僕…竜也の気持ち聞いて…それでも先輩が好きで……でもいつか先輩が離れていくんじゃないかって…怖くて…でも先輩の前じゃ泣いたらいけない気がして…。」
裕也は今までためていたのであろう気持ちを泣きながら吐き出した。
「そうか。裕也お前は強くなくていいから、俺が代わりに強くなるから、そして俺がお前を護ってやるからな。あの先輩の前で泣けないなら俺がお前の泣く場所になってやる。だから…」
(だからずっとお前の傍にいさせてくれ、、、)
違う。裕也が笑うために必要なのはこんな言葉じゃない。…俺が傍にいることではない。
今裕也に必要なものは、、、
「お前は先輩に笑ってやってくれよ、、、」
嘘だ。本当は裕也の泣き場所になどなりたくはない。裕也と一緒に笑っていられる場所でありたい。
あの笑顔をあの先輩ではなく俺に笑いかけてほしい。あの先輩がいる場所に俺が立っていたい…。
この気持ちを裕也に伝えたい。でもそれは裕也にとって悲しませるものの他ならなかった。
裕也を泣かせるものでしかない…。
口の中は先ほどの血の味が粘りついていた。
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