裕也が俺に向かって笑ってくれなくなった。

それはあの竜也のことがあってからだった。裕也にどんな事を話しても笑ってくれない。
それどころか少し辛そうな顔をする。

俺はそんな裕也を見たくなくて時にはその唇に俺の唇を落としたりもした。
だけど裕也は一層悲しそうな顔をした。

理由は言うまでもなく竜也絡みだということは分かっている。わかっているけど、どうすればよいのかわからない。
そんな無力な自分がたまらなく憎く虚しかった…。

「裕也帰ろうか。」
部室の外で待っていた裕也に声をかける。裕也は力なく顔をあげて立ち上がった。
あの日以来俺と裕也は2人で帰るようにしている。これで裕也と一緒にいる時間も増えた。
それでも裕也は笑ってくれない…。

裕也は好きだとも、幸せだとも言ってくれる。でもその顔に無理をしているような曇りがあった。

「先輩、、、今度試合ですよね?」
裕也が話しかけてくれたのが嬉しい。けれどあの日以来裕也は俺と話すときに敬語を使うようになった。
俺たちの間に明確な溝ができていることが不意に感じた。

「…うん、今度が最後の試合。まあ勝ち進めば県大会とかでられるけど…。」
そうだもう今度の試合で3年間やってきた中学の野球も終わる。
いまの仲間で白球を追う日々の終りが刻々と近づいている。そして、こうして裕也と過ごす日々も、、、

「見に行きますね。頑張ってください。」

「ありがと、俺も裕也の試合見に行くからな。出るんだろ?」
裕也が試合に出ることはサッカー部の友達に聞いて知っていた。

「まぁ一応…。でも無理しなくていいですよ。どうせ活躍なんてできないし…。」
裕也は悲しそうな顔をして俯いた。だからあえて俺は明るく言った。

「活躍なんてしなくていいって!俺は裕也がサッカーしてる姿を見たいだけだから。」

そしてすぐに裕也と別れた。「じゃあまた今度な。」という言葉だけで…。

吹き抜ける風に時が流れていくのを感じた。
そして、それと同時に裕也の姿が霞んでおぼろになっていくのを感じた…。






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