竜也についていくとそこは部室からは離れた校舎の影だった。
そこは普段人気もなくこの時間になると当たり前のように静まり返り真っ暗になる。
校舎から漏れ出るわずかな光もここには届かない。
今僕たちを照らしているのは僅かな柔らかい月の光だけだった。

「裕也、俺これから言うことは本当に正直な気持ちだから裕也も嘘つくなよ。」
僕は言葉ではなく頷くことで返事をした。それは薄暗い中伝わったのかわからないが、竜也はもう話をすることを決心していたのだろうから形だけの物だということがわかった。

「俺は昨日嘘ついてた。ホントは俺先輩のことが、、、貴博くんのことが好きだ。」
そう言ったあと竜也は言葉がつまってしばらく黙ってしまった。

「竜也、僕も先輩のことが好きなんだ。それに先輩も僕のことを好きだって言ってくれた。僕もそれを信じてる。」
そう言うと竜也は諦めたのか確信したのかよく分からない溜息を1つ吐いた。

「俺、貴博くんのこと小さいころから見てて好きで好きでたまらなかった。優しくて格好良くて面倒見が良くて…。最初は憧れだった。」
その声は表情が分からないからはっきりとは言えないが泣いているようにも力強く言っているようにも感じた。

「最初は憧れだったけど途中で気付いてた。でもその感情が普通の人とは違うこともわかってた。だから俺どうしたらわからなくて辛くて、でも、、、それでも先輩のことが好きで、、、」
僕はただ静かに竜也の言葉を聞いていた。竜也の言葉を真剣に受け入れるために…。
先輩がそうしたように竜也の気持ちを真剣に考えるために。

「でも、吹っ切れるのが遅かったみたいだな…。貴博くんから『ごめん』って言われたよ。めっちゃ困った顔してたよ。その時、あぁ、もう無理だなって分かった。先輩も俺と同じ種類の人で裕也のことが好きなんだなって。」
そこまで言うと竜也は大きく息を吐いて月が光る空を仰いだ。

「でも、もし。もしもチャンスがあったら俺は先輩を包んでやりたい。いくらお前が貴博くんを好きでも貴博くんがお前を好きでも俺は貴博くんのことが好きだ。諦めたわけじゃないからな。」
そう言った竜也の顔は薄暗い中でも分る位晴れやかだった。その笑顔は先輩に負けず劣らず輝いていた。

「はぁ〜。初めてこのこと人に話したからすっきりしたな。ごめんなこんなに遅くまで残しちゃって。そろそろ帰るか。」

そして僕たちは肩を並べて一緒に帰った。歩きながら竜也から小さい頃の先輩の話を聞いた。試合での活躍、初めて遊んだ時のこと、キャッチボールをした時のこと、、、
そのほとんどが竜也の惚気話と言えるほどのものだったが楽しかった。

そして2人が分かれ道へとさしかかった。2人は言葉を交わさずにそれぞれの道へと進んだ。

竜也は再び空を仰いだ。そこには先ほどとは打って変わって雲もないのに月が霞んで力なく弱々しい光を放っていた。
その月は徐々に霞を増して視界全体がぼやけてきた。

「あんなに真剣だったら悪口の1つも言えねぇじゃないか…。

裕也お前ずりぃよ。

俺格好つけるしかねぇじゃんか、、、」

晴れ渡った夏の夜のなか竜也は土砂降りの中に立っているようだった…。






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