ただ、そばにいるだけでいい。そのはずだった。
先輩の、、、貴博くんの傍にいるだけでよかったはずなのに…。

俺は貴博くんの傍にいることが辛くなった。傍にいることが苦痛になった。
傍にいることが、あの人の近くにいることが耐えられなくなった。
自分の気持ちが溢れてしまいそうで、それでも伝える勇気はなくて、、、貴博くんが離れていってしまいそうで、、、

自分の気持ちの矛盾が抑え切れなくなって押しつぶされそうだった。
それでもあの人は変わらずに俺に笑顔を見せてくれる。あの笑顔で俺の名を呼んでくれる。
その度に俺は喜びながら心が痛んだ…。

2年にあがってすぐ野球部で合宿があった。
朝早くから練習して夜は夜で就寝するための大広間で騒いで騒ぎ疲れると布団を適当に並べて寝た。
そして、最後の日に俺は先輩の横になった。

横になると先輩は間もなくして寝息を立てた。とてもかわいい寝顔だった。
「先輩…。」
俺は小さく呟いた。

こんなに近くにいるのに届かない想い。いや、違う。届けることができない想い…。

近くにいるからこそ辛い。こんなに近い距離が俺にとっては何メートルにも何キロにも感じられた。

手を伸ばせば触れることもできる、でもこの想いは届くことはない。
この人がたまらなく愛しい。もっとそばにいたい。この想いを伝えることができたら…。

いや、いっその事こんな想いなど無くなってしまえばいいのに。
こんな気持ちがなくなってしまえば俺は貴博くんと何も考えずに傍に入れるのに。

もし俺が普通に育っていたら、、、普通に女の子のことを好きになって付き合うことができたならばこんな想いはしなくてすんだのだろうか…。
貴博くんと他愛のない話や時には彼女の話なんかして笑いあえたのだろうか。
俺がこんなじゃなかったら…。俺が普通だったらよかったのに…。

こんな想いをするなら先輩と出会わなければよかった。野球なんてはじめなかったらよかった。
あの笑顔を見なければよかった…。

でも、その先輩が泣いていた。
あの試合が終わった後泣いていた。引退する訳でもないのに、あの最後の試合で泣かなかった先輩が…。

その涙は俺が今までの中で初めて見た先輩の涙だった。

その時俺の中で何かが吹っ切れた気がした。俺が先輩のことを護ってやりたいと思った。
俺が先輩の涙を止める存在でありたいと…。

気づくと俺は先輩の目の前に立っていた。






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