「送っていくよ。家も知りたいし。」
先輩はそう言うと荷物を持ってベンチから立ち上がった。
送って行くと言っても2人とも歩きだから自転車の2人乗りの様に直接的な先輩の体温を感じることができる訳ではない。
でも、歩きの分のゆっくりと流れていく時間の中で先輩の存在を感じることができた。確かな存在を…。
5分程度で家に着いてしまった。当り前だが、誰と帰ろうが距離は変わるわけはない。
でも、先輩と今歩いてきた道はとても短く感じた。
「ここです。送ってもらってありがとうございました。」
「ここかぁ。今度からは迎えに来るね(笑 こっちこそ、いきなりでごめん!」
「僕も会いたかったからいいんです。ずっとこうして2人きりで会えるの待ってたから、、、」
また瞳から涙が溢れそうになった。
「ごめん。気づいてたのに、裕也の気持ちにも自分の気持ちにも、、、なのに、、、」
先輩はそう言うと手をそっと頬に添えてさすってくれた。手にできたマメのつぶれた跡がざらざらとした感触だった。
僕はその手を取り、そのマメができている部分を撫でるようにさすった。
「わかってるから。わかってくれてるから。先輩はいつも僕のことを気にかけてくれたし、僕が先輩に気にかけてるのもわかってくれてた…。
僕って鈍いし、そういうのわかんないから先輩ばっかりに気苦労させてたと思うけど…。」
そこまで言うと一瞬唇に先輩の唇が触れた。それは本当に一瞬だったし、触れたか触れていない程度のものだった。
だけど確かにそこに触れたという存在を感じた、、、
先輩は本当にシャイだ。学校で僕と会うだけで顔を赤くする。公園でのキスも僕からだった。
そんな先輩が自分からキスをするなんて尋常なことではなかったはずだ。
たとえそれが一瞬だったとしても。その証拠として先輩は顔を赤くしてはにかんでいた。
[戻る]