「それ懐かしいだろ。て言っても覚えてないか?」
振り向くとそこには飲み物を手にした塩田君が立っていた。

「うん。ごめん覚えてない…。」

「その写真、原野が剣道辞める時に最後だからってうちの親が撮ったんだよ。」

「そうだっけ?少ししか経ってないのに結構忘れるものだね。」

「そっか、原野は忘れたか…。俺はずっと覚えていたのにな…。」
塩田君は少し悲しそうな笑みを浮かべていた。

塩田君は本当に僕のことを見てくれている。本当に僕を大切に思ってくれている。
今までも、そして今現在も。だからこそ隠しておきたい。
暗闇に隠れている自分を、汚れきった自分を…。自分を見せるのが怖い。
まず、自分が何なのか分からなくなってきた。ずっと隠してきた僕はどれが自分なのかが…。
もし、その自分でもわからない自分が塩田君にばれてしまったら…。

「ほら、また原野辛そうな顔してる。」

「そんなことないよ。ちょっと思い出そうとしただけ。」

塩田君はまた一つ溜息をついた。

「また嘘ついた。俺に嘘つくなって言ってるだろ。」

「そんなことない…。それより今日ほんとに泊っていいの?ご飯とかは…?」

「話をそらすなよ。まぁでも晩飯は困ったな。俺、料理とかできないし。コンビニ弁当でも買ってくるか。」

「僕の料理でいいなら作れるけど…。」

「えっ!?原野って料理作れるの?作って!」

「まず冷蔵庫に何が入ってるか見ないと…。」

「どうぞどうぞ。何でも使っていいから。そうだ!エプロンがいるな。」

「別にエプロンなんていらないよ。そんなに本格的にするつもりないし…。」

「馬鹿!エプロンしてた方が可愛いだろうが!」
塩田君はそう言うとどこからかエプロンを引っ張り出してきた。

「こんなのとか似合いそうだけど…。」

「もう何でもいいよ。それ着るからもう作り始めていい?」

「いいよ。何か悪いな俺が泊れって言ったのに。それにしても似合うなぁ。」
塩田君はそんな事を言いながら僕が料理をしているのを見ていた。

「はい、できたよ。」
そう言って僕が出したのは簡単なサラダと野菜炒めと味噌汁、そして白いご飯だった。

「野菜ばっかりかよ。肉は?肉!」

「だって冷蔵庫に野菜しか入ってないもん。肉なんて生モノだからそんなに買いだめしないし。」

「そんなもんか。まぁ原野が作った料理なら何でもいいけど。」
そう言って塩田君は食べ始めた。うまいうまいと言いながら。

「原野料理うまいな。うちの母ちゃんよりもうまいよ。あっ!皿はそのまま流しに置いといていいから。あとでしとくから。


母ちゃんが…。」

「おばさん大変だね。」



「…。」
すぐ後ろに気配を感じた。
後ろから手が回ってくる。

「将、好きだよ…。」


「将、俺はお前が俺のことを何とも思ってなくても好きだからな。ずっと護ってやるからな…。」

下の名前で呼ばれたのはいつ振りだろうか。ずっと苗字で呼ばれていたから何か慣れない。

しかし、そんなことは関係なく僕の鼓動は一気に速くなっていった。

必要とされている。

塩田君の心の中に僕の居場所がある。暖かい場所が…。
信じてもいいのかもしれない。ふとそう思った。

「わかったから。塩田君の気持ちも僕の気持ちも…。信じていいんだよね?」

「あぁ。俺は何があっても将を護るから。信じてくれ。」

「うん…。」

そう言うと僕は向き直り塩田君と向き合った。そして塩田君の胸に顔をうずめた。

筋肉がついてしっかりとしたその胸はとても温かかった。塩田君が腕に力を込めて僕の体をしっかりと包んでくれる。

「塩田君…。塩田君がこんな優しさでずっと包んでくれるなら…。」

「将が望むならいつでも、いつまでも包んでやる。」


塩田君は青あざができた僕の頬をそっと撫でた。そしてそっと僕の顔を上にむけると互いに唇を重ねた。

でもそれはそっと重ねる程度のものではなくゆっくりとしっとりとしたものだった。


「何か恥ずかしいな。こういうのってディープキスって言うんだよな。何か将の味?がした。」

塩田君は顔を真っ赤にして言った。

「部屋に行こうか。」
僕はエプロンを外して塩田君の部屋へと向かう。

「食べた事だし風呂にでも入るか。将の着替えは俺のを貸すから。」
塩田君はまたもやどこからか僕の着替えを持ってきた。

「ちょっとダボダボだけど何かそこが可愛い。」
塩田君はにやけながら僕の姿を見ていた。








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