その腕は僕をしっかりと包み込んだ。そして、僕は何故かその腕を払うことができなかった。
最初に感じた父と同じ恐怖はもう無くなっていた。
肩ごと抱かれ体を密着させられる。
塩田君の体は思っていたよりも逞しく筋肉がついていて温かかった。
僕と一緒に剣道をしていた時はもっとお互いに幼い体つきだったのに…。
「辛いなら何で隠してるんだよ!何で俺に分けてくれないんだよ!」
「それは、、、自分の所為で人を悲しませたくなかったから。裏切りたくなかったから…。」
下唇を噛み締める。自分の気持ちが分からなくなる。
「何でそんなに人を怖がるんだよ。せめて俺だけにでも話してくれよ…。」
「教える代わりに一つだけいい?」
塩田君は声を出さずに頷いた。
「どうして僕が隠し事してるのわかったの?自慢じゃないけどうまく隠してたつもりだけど…。」
それは初めから気になっていたことだ。それなりに上手く僕は騙してきた。
現に塩田君以外のクラスの人や先生は騙されている。
「それは、、、」
次は塩田君がさっきの僕みたいに困惑している。目を泳がせている。
「それは、俺が原野をずっと見てきたから…。今までずっと…。」
(今までずっと?剣道を一緒にやっていた時から?なんで?)
すると塩田君は決心したようにすっと息を吸った。
「俺、ずっと原野が好きだったから。
剣道を一緒にやってきた時から。男同士だからその時は好きって気持ちだって分からなかったけど…。」
塩田君は顔を真っ赤にして笑顔でこちらを見た。その顔からは恐怖を感じることはなかった。
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