塩田君が僕に手を向けてきた。
でも、それは僕に触れる前に僕の手によって払われた。

「なんでだよ!俺も信じてくれないのかよ…。」
塩田君はそう言うと俯いて黙ってしまった。

「そうだよ。僕は誰も信じてない。親も先生もクラスの皆も。塩田君も…。」

「なんで信じてくれないんだよ…。」
その声はとても小さくて泣きそうな声だった。

「さっき言った通りだよ。裏切られた時の辛さを知ってるから…。」

実の父親に虐待を受け、養父からも虐待を受け続けている。
そして挙句の果てに信じていた母親に捨てられた。
そんな僕には本当に心から信じることのできる人を作ることが出来なくなってしまった。
人を信じることが怖くなってしまったから、、、

塩田君は顔を真っ赤にして興奮していた。
その瞳にはかすかに涙が溜まっていた。

「じゃあ原野は信じてくれない辛さって知ってるのかよ!」
その時塩田君の瞳から溜まっていた涙が一筋流れた。

「それは、、、」
僕は言葉が出なかった。僕は人を信じることが怖かった。心を開いた事などなかった。
仮面をつけて『いい人』を演じてきた。

そんな僕に自分の秘密を打ち明けたり馬鹿な話をしたりする本当の友達などいなかった。
僕はそれでいいと思っていた。信じるなんてことは曖昧だ。

裏切られる辛さを知ってから、自分が人を裏切ってしまうんじゃないかと思ってしまっていた。

自分があの母親と一緒になってしまうのは嫌だと思った。
それなら、最初から信じてもらわなくていいと…。
だから、信じてもらえない辛さなど考えたこともなかった。

塩田君は困惑している僕に近づくとすっと腕を上げた。



その腕は背中へとまわった…。







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