何で?塩田君とは剣道をやっていた時に少し面識があった程度だ。特に親しかった覚えはない。
疑問は僕の心に暗闇を作り出した。
何を考えている?何を探ろうとしている?何をしようとしている?
『自分』をつかまれないように笑顔を作る。
「別に僕は構わないけど、病院には行かなくていいの?」
一瞬塩田君は困った顔をしたが、一度帰るからと言って、また眠そうに目を擦った。
気のせいか少し頬が赤く染まっているように見えた。
荷物を取ろうと歩みだした時に机の横に掛けてあった体育館シューズの袋に躓いた。
咄嗟に机に手をつき、転ぶことは避けることができた。だけど、、、
倒れそうになって机に手を付いている僕に塩田君は駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?」
血相を変えて大きな声で僕に問う。そして、僕の肩を強く揺らした。
また体中に鳥肌が立つ。肩に父の存在を感じた。強い存在を…。
肩をつかんでいる手を掴んで肩から引き離す。そして自分は一歩後ろに下がって塩田君との間に見えない隔たりを作る。
「ごめん、大丈夫だから…。」
荷物を取ろうと塩田君の横をすれ違う。
「大丈夫じゃない!」
背後で塩田君の叫び声が聞こえた。思わずビクッとなって肩が上がる。
振り返ると先ほどの寝顔と同じとは思えないほど顔を赤くして興奮している人物がいた。
『怖い』そう思った。激昂している塩田君から父と同じ恐怖を感じた。
「本当に大丈夫だから。転んでもないし…。」
「そんな事じゃない!」
その時、塩田君の表情は悲しんでいるような、憂いを帯びたものだった…。
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