目が覚めるともう朝になっていた。将はベッドからおりると、そのまま1階へとそっと降りる。
リビングに置いてあるパンで朝食をすませる。朝は父の朝食は作らない。どうせ起きないのだから。
僕たちは僅かな生活保護のお金と父の日雇いの収入だけで暮らしている。
実は僕も剣道をしていたが今の家計では続けることはできない。まず、父が続けさせてくれる訳がない。
母が実の父から逃げた時にやめた。
今思えば、塩田君とはその時に少し話した程度の面識があった。だからあの時教室で話しかけてきたかもしれない。
そんなことを考えているうちに、いつも登校している時間になっていた。急いで着替えをおわらせて家を出て学校へと向かう。
いつもと変わらない道。いつもと変わらない風景。いつもと変わらない風。そしてまた学校へと着く。
いつもと同じ喧騒を聞きながら上履きに履き替え職員室に鍵を取りに行く。
しかし、職員室に鍵はなかった。いつもより遅くなったとは言えそれでもこの時間に登校している生徒がいるはずがない。
そう思いながら僕は教室へと向かった。静かな廊下に足音が響きわたる。
教室に電気が付いているのがわかった。
ドアを開ける前になぜか中にいる人物の予想がついた。
ドアを開けると予想通りの人物が笑顔でこちらに振り向いた。 塩田君だ…。
こちらも笑顔を作って、塩田君の方を見る。
「塩田君早いね。」
「今日は朝練がなかったから。原野も十分早いよ。」
塩田君は笑顔のまま答えた。
「僕は学校で宿題とかする主義だから。」
「そうなんだ。勉強か、えらいなぁ。俺は剣道で精一杯!」
塩田君はそう言うと椅子から立ち上がりこちらへ歩み寄ってきた。そして不意に手を頬に添えた。
僕はいきなりだったから手を払ってしまった。
「いきなりごめん。でも頬どうした?青あざができてるけど…。」
(っ!そうだった。昨日の跡が、、、)
すぐに表情を作りちょっと、と言ってその場を誤魔化した。そのはずだった…。
[戻る]