驚いて頭にのっている手を振りほどいて椅子から立ち上がる。そして、その手の主を見る。
「2年3組8番塩田晋也(しんや)」
剣道部所属の生徒だ。すぐに表情をつくる。
「塩田君か、びっくりした。大丈夫って何のこと?」
本当の疑問だった。
たしかに辛かった
叫びたかった
だけど、それは心の中にとどめたはずだ。表情には出していない。
ましてや涙など流していない。それなのに何故「だいじょうぶ?」という言葉をかけたのだろうか。
相手の表情をうかがう。決してこちらの心が読まれないように…。
「何の事って、原野今つらそうな雰囲気出してたから。」
塩田君はすこしハニカミながら照れくさそうに答えた。
「雰囲気って
しかもこんなところで時間つぶしてもいいの?部活は?」
今は試験期間中でもないし剣道部はここら辺では有名な強豪校である。そんな部活が理由もなく休みになる筈がない。
「そうなんだよね〜、部活かぁ。そろそろ行くか。」
そう言うと塩田君は椅子から立ち上がり、何事も無かったように教室から出て行った。
(なんだったのだろう、、、)
塩田君が教室を出て行ったところで表情をもとに戻す。闇の中に生きているような無表情に…。
塩田君は基本的に部活に対してはすごく真面目だ。1年からレギュラーの座を奪ったというのもその熱心さも関係していると思う。
それなのに部活に遅れてまで表情に感情を出していない何を考えているかわからないクラスメイトを雰囲気だけで気に掛けるだろうか。
いくら考えてもわからない。いいや、今まで人に関心をあまり持たなかったから理解する方法がわからない。
チャイムが鳴った。その音で現実に引き戻された。闇へと落ちていく時間が迫っていた、、、
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