「あ、竜くん。」

多分、俺が生まれてきた中で最高の笑顔をしている時だった。その声は人ごみの中から微かに聞こえた。
沢山人がいる中、ある一人の人物だけ浮いているように眼に映った。

二人組の女の子がこちらに歩き寄ってきた。誰もが振り返るような可愛いその女性を、俺は素直に綺麗だとは思えなかった。

「遥、何でここに居るんだよ。」

「今日は春ちゃんと買い物に来ただけだよ。」

春ちゃんと呼ばれた隣の女の子は小さく頷いた。その子は知らない人だった。だけど、もう一人は知っている。

小山遥。顔もよくて、頭もよくて、性格もいい。所謂、完璧人間。

…そして、竜の彼女。

「遥、一緒に行くか?」

「えっ?でも、友達も一緒だから…。」

そう言いながら、許可を求めるような眼で俺の方を見てきた。

「そっちの女の子はいいの?」

春ちゃんの呼ばれた女の子に視線を向けた。その女の子は先ほどと同じように小さく頷いた。俺も頷くしかなかった。

「じゃあ、さっきの店に行こうぜ。純が行きたいって言ってたところ。」

「…うん。」

店に行きつくころには、完全に2組に分かれてしまっていた。
俺はいつの間にか春ちゃんと呼ばれた女の子と親しくなっていた。

本名は市川春(いちかわ はる)。隣のクラスだった。小山さんとは中学生のころからの友達らしい。

「二人って本当に仲良いよね。」

市川さんが笑いながら前を歩く二人を見ながらそう言った。素直に肯定なんて出来なかった。

「純、早く入ろうぜ。」

「うん、今行く。」

店の中に入ると、沢山の物で埋め尽くされていた。その中で一番いいものを選ぶつもりだった。
野球の邪魔にならなくて、カッコいいやつ。そんなのをお揃いで…

だけど、そんなこと言いだせるはずなかった。

「竜、こんなのが良いんじゃない?」

「それだと遥が似合わないだろ。」

さっきから楽しそうに色々な物を見て回っている二人。

それは俺が思い描いた理想の『デート』だった。



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