「なぁ、兄さん」
「どうした、ライル?」
「アレルヤがすっごく機嫌悪そうに見えるのってさ……、俺の気のせい?」
「……」
立ち入り禁止の屋上にて、生徒会役員及び執行部員の五人は昼食を摂っていた(会長権限)。ライルとニールの視線の先には、黙々とパンを食べているアレルヤが居る。いつもはにこやかなアレルヤだが、今は違う。無表情だ。普段は柔らかい雰囲気で隠されている、元々生まれ持った鋭い目付きが剥き出しになっている。とても珍しい。何となくその原因に予想を付けているディランディ兄弟は、敢えてそれに触れるような事はしない。空気を読んだ賢明な判断だと言えるだろう。
しかし、空気を読まない電波少年がここに居た。
「……、おいアレルヤ、ハレルヤはどうした?」
「「(刹那ぁあぁっ!)」」
そう、此処に居るのは五人。ニール、ライル、アレルヤ、ティエリア、刹那。ハレルヤが、居ない。
ぴたり、と、アレルヤが動きを止めた。
「ハレルヤかい?ニ限目から居ないよ。サボってるみたい」
期末考査明日からなのに、と、アレルヤが呟く。
「「(ああ、だから機嫌が悪いのか……)」」
六月下旬、夏に向けての気温の上昇に、衣替えがつい最近行われた。楽しい球技大会と夏休みの前には、期末考査がある。ハレルヤなら心配無いだろうが、アレルヤは気になるのだろう。ニールとライルはそういうことか、と苦笑した。
しかし、アレルヤの機嫌が悪いのは、その為だけではなかった。という事が分かったのは、放課後旧校舎の生徒会室に戻ってからだった。
「テメェ、だから違うって言ってんだろうが!ちゃんと公式を覚えやがれ!」
「えー、だってこんな長ったらしい展開公式覚えられねーよ!」
生徒会室の机の上に教科書とノートを広げ、ぎゃいぎゃいと騒いでいる生徒が二人。一人はハレルヤ、もう一人は鮮やかな青の髪に泣き黒子の青年だ。隣に居たアレルヤの眉間に皺が寄ったのを見留め、ニールは慌てて痴話喧嘩をしている二人を止めに入った。
「おいおいおい、ちょっと待て!なぁ、お前さん、誰だ?」
「俺?ハレルヤとアレルヤのクラスメイト、ミハエル・トリニティだ!」
青年、ミハエルはニッと笑った。
「……、トリニティ?え、トリニティって……、」
ニールは驚きに目を見開く。ハレルヤはニールの反応に怪訝そうな顔をした。
「コイツが何だ?」
「、もしかしてお前さん、ヨハン・トリニティの弟か!?」
「おう、そうだぜ!」
「ヨハン?」
「前生徒会長だ。大学部へ進学する際、ニールを後任に推薦して辞任した」
聞き返したハレルヤに、ティエリアが答える。
「はぁ!?コイツの兄弟が!?」
「知らなかったな、弟が居たなんて」
「ああ、俺とネーナは今年からこの学園なんだ」
「ネーナ?」
「俺の妹!」
嬉しそうに笑いながら妹の自慢を始めるミハエル。何が何だか分からない。
「……、雰囲気がヨハンと全然違うな……」
「うるさい」
ライルの言葉に続き、ティエリアもその印象を述べた。ティエリアの機嫌もアレルヤ同様悪くなりつつある。
「……、おい、ミハエル」
「んあ?」
「お前、勉強するんじゃねぇの?」
「あ、そうだった!」
「はー……、おい、ニール」
「はいっ!?」
「……んだよ」
ミハエルの返事に大きな溜め息を吐いたハレルヤは、ニールに話しかけてその大袈裟な反応に眉を寄せた。
「あー、びっくりした……。お前さん、俺の名前呼んだの初めてだろ」
「そうか?」
「あーっ!兄さん狡い!ハレルヤ、俺は!?」
「るせぇ、黙ってろライル!」
「……」
何とも言えない複雑な表情をしたライルの頭をぽんぽんと撫で、ニールは苦笑しつつハレルヤの言葉を促す。
「あー、で、何だ、ハレルヤ?」
「ああ、コイツさ、あんまりにも馬鹿で同室の炭酸に追い出されたんだと。もう面倒見切れねぇ、ってな」
「馬鹿って言うな!」
「自覚ねーのか馬鹿!で、しゃーねーからよ、とりあえずここで勉強させても良いか?」
「(た、炭酸……?)」
炭酸に少しの疑問を抱きつつも、ニールはティエリアの方をちらりと見た。ティエリアはその視線を受け、嘆息する。
「……、静かにするなら、構わない」
「お!サンキュー!」
ミハエルがニカッと笑う。
「ハレルヤは面倒見が良いんだな」
きっとニ限目からずっとミハエルに勉強を教えていたのだろう。刹那の言葉に、ティエリアは眉を寄せたまま頷いた。