今日は休日だ。時刻は午前十時になろうとしている。
昨日、ハプティズム兄弟は生徒会からの招待状を受け取り、(色々な過程を経て)執行部員となった。昨夜旧校舎への引っ越しも無事に済み、二人(特にハレルヤ)は疲れ果てて眠りについた。しかし、疲れていたとはいっても二人はまだ起きてこない。
朝食を食べることが出来ずにイライラし始めたティエリアをニールが宥めたのは十分前。あまりにも遅いと言ってライルが二人を起こしに行ったのは五分前。そして今、ライルはまだ戻って来ていない。待ちくたびれた刹那は食卓に突っ伏して寝始め、ティエリアの苛立ちはピークに達しようとしていた。
「遅い」
「そ、そうだな……俺もちょっと行ってくる」
ニールは焦ったようにダイニングルームを出る。二階に上がり、自分の部屋の隣を目指した。そこがアレルヤとハレルヤの部屋だ。因みに、刹那とティエリアの部屋は、ニールの部屋の向かいだ。ライルはニールと同室。部屋が多くあるにも拘わらず、六人は三部屋しか使用していない。
目的の扉に着いて、ニールは部屋の中をそっと覗き込んだ。中に見えたのは、ぼー、と突っ立っているライルだった。
「……ライル?お前何やって、」
「っ、!しーっ!」
ニールの声にライルはびくっと震え、慌てた様に唇に人差し指を当てた。黙ったニールに、今度は手招きをする。ニールは疑問を抱きながらも、ライルに近寄った。
「兄さん見て、ほら!」
「……!」
ライルが指す方向を目で辿り、ニールは息を飲んだ。そこにはお互いに抱き締めあって眠っているハレルヤとアレルヤが居た。二つのシングルベッドはくっ付けられていて、その真ん中で小さくなって双子はすやすやと眠っていた。一方が甘える様に相手の胸元に擦り寄り、もう一方が優しくその頭を抱え込んでいる。髪の分け目がぐちゃぐちゃでどちらがどちらか分からないけれど、要するに、一言で言うと。
「かわいい……!」
「だろ?」
ぎゅ、と二人共抱き締めてしまいたい衝動を抑え込んで立ち尽くすディランディ兄弟。まるで天使を見ているかの様だ。
「どっちがハレルヤでどっちがアレルヤなんだろう……」
「俺もそれ考えてたんだ。兄さんはどう思う?」
「うーん、こっちがアレルヤ、じゃないか?」
ニールが指差したのは甘えている様に見える方だ。
「そうか?そっち、俺は案外ハレルヤじゃないかと思うぜ?」
「うーん、」
がちゃん。
下から、何か物音がした。
「!」
「ヤバい!」
とうとうティエリアがキレた、もしくは刹那が椅子から落ちたのだろう。我に返ったディランディ兄弟は顔を見合せた。
その時。
「……ん、」
先程ニールが指差した方がうっすらと目を開いた。見えたのは、金色。
「あ、」
「ハレルヤ?」
「……、るせぇな……、今、何時だ?」
「十時過ぎだ」
「そろそろ起きてくれよ」
そう言いながら、ライルはニールの方を見て笑っている。どうやら予想が当たったのが嬉しいらしい。どこか誇らしげだ。ニールは思わず苦笑した。
そうしている間にハレルヤがアレルヤの腕を退かせて上半身を起こす。ぐっと伸びをして、ぐしゃぐしゃの前髪を気だるげにかき上げた。そして不意に身を屈めて、アレルヤに口付けた。
ぴしり、とディランディ兄弟が固まる。数秒後、アレルヤがゆっくりと目を開いた。
「ん、ハレ、ルヤ……?」
「アレルヤ、朝だとよ」
「んん……?」
銀の目が、状況判断の出来ていないディランディ兄弟の方をぼんやりとさ迷う。そして。
「うわぁあぁっ!!」
突然その目が見開かれたかと思うと、がばりと効果音が付きそうな勢いでアレルヤが起き上がった。その顔は真っ赤だ。
「い…っ、今の…み、見ましたか……!?」
「……見ました」
「……ばっちり」
「うわぁあぁ……!」
本日二度目の叫び声を上げてさらに赤くなったアレルヤは、隣でにやにやと笑っているハレルヤに枕を投げ付けた。それを横目で見つつ、ライルもニヤリと笑う。ニールの腰にするりと腕が回された。
「負けてられないな。俺達ももっとオープンに行こうぜ、兄さん?」
アレルヤ同様真っ赤になったニールがライルに蹴りを入れた事は言うまでもない。