テストを終えて夏休みを目前に控え、高校生には楽しい夏がやって来る。そして、夏休みの前に1つ大きな行事があった。
「ハレルヤ、ハレルヤ!」
ばしっ!
「っ!?ってぇなこの青頭クソホクロ野郎がァア!」
「その滑舌の良さにいっつも感心するぜ!俺だったら絶対噛む!」
「うぜぇえなテメェ、人叩き起こしやがって、おい、アレルヤも炭酸も止めろよ!」
「僕が起こそうとしても起きなかったからね。たまにはちゃんと授業起きて聞けばどうだい?」
「お前らうるせぇよ、カティ先生の声が聞こえないだろ!」
ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!
「いったぁああ!!」
「あぁ、確かにうるさいな。黙らないと怒るぞ」
「っ、クッソ、もう怒ってんじゃねぇか…いって」
「自業自得かもしれないけど…っ、拳骨は、酷くないですか……?」
「せんせぇ……なんで俺まで……」
「お前達のせいで他の生徒に声が届かない」
そう言いきってカティはこめかみに手を当てて小さく溜め息を吐いた。教室の後ろ隅を陣取っている4人(普段はアレルヤを除き3人)はいつも悩みの種である。
「で、今までの話を聞いていたか」
「……悪い、なんだ?」
「球技大会だよ。何の種目に出るか決めようとしてた」
小さく尋ねたハレルヤにアレルヤが返事を返す。その様子を見てカティは再び溜め息を吐きながら教壇まで戻った。チョークを取り出して黒板に達筆な字で種目を書き連ねてぱんぱんと手の粉を払う。
「種目は男子はバスケ、バレー、サッカー、テニス。女子はサッカーの代わりにソフトボールがある。私は担任だから体育をしている君達の様子は知らない。君達で話し合って好きに決めろ」
カティがそう言ったきり椅子に座って傍観を始めると、すぐに教室がざわめき始めた。
「ハレルヤとアレルヤは絶対種目掛け持ちだな!」
「そうかな」
「まぁ運動は得意だし言われたらやってやんよ。つーかお前らは何希望すんだ?」
話し合いが始まった途端うきうきとした様子のミハエルに話しかけられてハレルヤはとりあえず首を傾げて尋ねた。その言葉に傍観を決め込むカティを見つめたままのパトリックが目を輝かせる。
「俺先生に勇姿見せられるならなんでも!」
「炭酸黙ってろ」
ちらりとも目を向けずにパトリックを一蹴したハレルヤは前の席のミハエルに目を向けた。
「オレバスケやりたい!このクラスバスケ部居ねぇし!」
「いいんじゃないかな。君は体育の時も上手かったし」
「お前らも一緒にバスケやろうぜ!」
「バスケか……でもテニスの方が先生に良いとこ、」
「黙れ」
「僕はバスケットで良いよ」
「俺もじゃあバスケでいい」
「じゃあコーラもな!」
そのままクラスの話し合いはトントン拍子に進み、最終的にハレルヤとアレルヤはサッカーとバスケットボールを掛け持ちするということになって話し合いは終わった。
しかし、夜になってからこの決定は変わることになる。
「今年は人数少ないし諦めかけたんだが、やっぱり毎年恒例だから生徒会でチーム組んで球技大会出ることにしたぞ」
「……はぁ?」
夕飯時、ニールの言葉を聞いてハレルヤは首を傾げた。アレルヤも同時に首を傾げる。
「どういうことですか?クラス対抗に生徒会のチームが混ざるってことですか?」
「ああ、そうだ。種目はバスケな」
「バスケ……?おい、俺らもクラスでバスケ出るって決まったんだ」
「悪いがそれは駄目だ。他の種目に出てくれ」
ニールの言葉に双子は顔を見合わせて同時に小さく溜め息を吐いた。クラスメイトのあの二人に言ったときの反応は簡単に想像できた。
「ニール……そういうのは先に言ってください」
「アイツら……うるせぇだろうな」
「クラスのみんなにも謝らないとね……」
「つーかメガネとチビはバスケできるのか?」
ティエリアがその言葉を聞いてすぐに顔を上げてハレルヤを睨み付ける。口の端にご飯粒をつけたままの刹那も顔を上げた。
「メガネじゃない」
「俺がガンダムだ」
「君は黙っていろ。あとご飯粒がついている。だらしない。万死に値する!」
「ああ」
「ご飯粒くらいで万死はねぇだろ」
「君も黙っていろ」
イライラしはじめたハレルヤを宥めつつアレルヤはニールとライルを見た。ライルも肩を竦めてニールに視線を移す。視線を受けて苦笑しつつニールは口を開く。
「まぁメンバーは基本俺とライル、アレルヤとハレルヤと刹那だな」
「ティエリアは?」
「監督だ」
「監督だァ?要らねぇだろ!」
「なんだと」
「まぁまぁ……ティエリアの指示はいつも適切だぞ」
ライルも苦笑してハレルヤを宥めにかかった。ハレルヤとティエリアが仲良くなるのは遠い先のように思える。
「ま、そういうことだから、明日から練習な」
「絶っっ対認めねぇ!!」
「つっても仕方ねぇじゃねぇか」
「一緒にバスケするって言ったじゃねぇか!ハレルヤとアレルヤがいないならバスケしねぇ!!」
「ガキか!」
「ミハエル、悪いとは思ってるけどこれは仕方ないんだって……」
「嫌だ!」
翌日、案の定ハレルヤとアレルヤの話にミハエルはへそを曲げていた。隣の席のミハエルを慰めつつアレルヤは困ったように後ろの席のパトリックを振り返った。
「パトリック、助けてくれ」
「しっかたねーな!ミハエル、考えてみろ、アレルヤとハレルヤが居ない方が俺ら活躍できるぜ!先生にいいとこ見せられるぜ!」
「最低だな、テメェは」
パトリックの言葉に心底呆れて大きな溜め息を吐きつつハレルヤは机に突っ伏してしまっているミハエルの背中を後ろからつついた。
「つーかお前の兄貴会長だったんだろ?知らなかったのかよ」
「……」
「……完全に拗ねているようだね」
「ああああめんどくせぇぇええ」
「…て、…る」
「……あァ?」
「……ミハエル?」
「何て言った?」
腕に顔を埋めたままのミハエルのくぐもった声を3人が聞き取ろうと顔を寄せた、次の瞬間。
ガタッ!
ガンッ!
「ぐはっ!!」
「パトリック!?」
「っ炭酸!!大丈夫か!?」
「倒してやるううぅう!!」
突然勢いよく立ち上がったミハエル。パトリックはその頭により顎を強打してうずくまった。慌ててパトリックに駆け寄った双子は、直ぐ様ふりかかった頭上からの叫び声を聞いて机の上に立ち上がったミハエルを同時に見上げた。
「「はぁ?」」
「お前らなんか敵だ敵ィっ!!」
「というかミハエル、君は頭痛くないのかい?」
「そうと決まれば炭酸と一緒にお前ら生徒会チームをぶっ倒してやる!!」
「つかテメェたった今俺らじゃなくて炭酸ぶっ倒したぞ」
「覚悟してろぉ!!クラスのやつら、やるぞ!!打倒生徒会、打倒ハプティズムだぁあ!!朝練、放課後練、サボったやつは俺がブッ殺す!!」
「「はぁあ?」」
こうしてミハエルの独断により、呆気にとられたクラスの男子と痛みに何も言えないパトリックを取り残したまま、生徒会に対する宣戦布告がなされたのであった。