問い詰めちゃいました



大急ぎでチャリを取って、近くの公園に向かった。
まさか、このまま返すなんて面白くない。
あの勘右衛門の恋バナだぞ?読モだの、学年1可愛い子だの、姉妹校の風魔学院にもファンが多いと言われる勘右衛門の恋バナだぞ?


は?風魔で人気があるなんて知らなかった?まあ、その話はまた今度してやるから、今は最後まで聞いておけ。

さて、本題に戻して……


「で、勘ちゃんはあの子が好きなの?」

兵助がいつもの無表情とも言える顔で問いかけた。お前、ストレート過ぎるだろ。そう思いつつ、勘右衛門を見れば、顔を真っ赤にして小さく頷いた。

「でも、一目惚れじゃなくて……その」

「勘ちゃんが言いたくないなら、無理しないでね」

しどろもどろしている勘ちゃんに雷蔵がそうアドバイスをした。当の本人は今にも泣きそうな顔になりながら、意を決したのか、喋り出した。

「今日、苗字さんのクラスに用事があっていったんだ。その時に球技大会のバスケ女子で話し合いをしてて……ケンカしてたんだ」

「おまっ、タイミング悪すぎだろ!!」

「言ってやるなよ、ハチ。勘右衛門もある意味、七松先輩に負けないKYだからな」

「三郎、ちゃちゃ入れない」

「はーい」

「勘ちゃん、続けて大丈夫だよ♪」

「う、うん…………苗字さんたちのクラス、総合優勝狙ってるんだって。
だから、バスケも上位を狙ってたみたいなんだけど、今日まで苗字さんがソフトテニスの大会か何かで練習に出れなかったみたいで」

「ああ。それで苗字さんが足手まといだ、みたいな言い合いしてたっていう事か?」

「そう。兵助の言う通りで、最初はバスケ女子のメンバーだけだったけど、他の種目の人たちも言い始めて……最終的に苗字さんを補欠にして出さないみたいな話まで進展しちゃってさ」

「…………イジメみてーじゃん」

「確かに。僕もそれはやりすぎだと思う。苗字さんは反論しなかったの?」

「しなかった。それで良いって言ってたんだ」

勘右衛門の発言に驚き、誰も言葉が出なかった。普通なら、反論なり、抗議なりするのに、一体なんなんだと思った。

「てっきり、やる気がなくてそう言ったのかと思った」

何も発しない俺たちに構わず、勘右衛門は淡々と言葉を続けた。

「でも、さっきのを見て分かったんだ。
苗字さんはやる気がなかったんじゃない。本当は彼女も出たいんだよ。
でも、その気持ちを押し殺して、体育祭に向けてまとまりつつあるクラスを分裂させないために自分を犠牲にしたんだ」

「なるほど。苗字さんは元々球技大会の練習から外れていたから、球技大会に向けて一致団結しているクラスに馴染めなかった。
そんな自分のせいで、内部分裂を起こすくらいなら、自分が犠牲になる方が被害が少なくてすむ。
自分が出れなくなっても、このままクラスがまとまっていけば総合優勝の可能が高くなる。
そういう考えで返事をしたという事か」

「そうだと思う。こんな時間まで残って練習をやるぐらい出たいのに、クラスのためにそこまで自分を犠牲にするなんて……」

心なしか勘右衛門の目が遠くを見ているような気がした。おまけに、落ち着きを取り戻した頬はまた熱を帯び始めていた。
こいつ、苗字の事でも考えてんな。そう分かってしまった俺は軽くイラッとしてしまい、

「そんな健気な姿にホレたんだろ?」

投げやりな言葉を勘右衛門にぶつけた。勘右衛門は俺の言葉に一瞬動揺したが、すぐに落ち着き、

「え、あ、あ……まあ」

と、いかにも恋しちゃってます的な返事をくれたワケだ。

まあ、そこからちょいちょい聞き出せば、元々放課後テニスコートに残って自主練してたり、休日の朝と夕方にランニングをしてる姿を見て気になってたとか言い出すから、びっくりしたよ。




「まあ、それから1年……モテるわりに奥手な勘右衛門くんは意中の苗字に話しかける事すら出来なかった。
そこで、痺れを切らした俺たちが仕込んでお前に告白させたのだよ。これで分かったかい、名前チャン?」

ニタリと悪い笑みを浮かべて、名前を見るが、その顔を羞恥やら照れやらで真っ赤に染まっていた。
こんな時にアレだが、このバカップル、こういうところも含めそっくりだよな。

「そうだったんだ……」

「一歩間違えば、ストーカーになりそうだったから、こっちはずっとヒヤヒヤしてたんだぞ」

「ん〜…ストーカーではないんじゃない?」

「はっ!?」

「むしろ、そこまで私を見て好きだって言ってくれたのに、あの時は悪い事しちゃったな」

いやいや、待て待て!
なんなんだ、その危機感のないゆるゆるな思考回路は!?
休日とか軽くとは言え、見られてたって言われたら気持ち悪いだろう!!!

「三郎くんとも約束してたし、尾浜くんに悪いし、謝ってこよう」

「待て!!勘右衛門に謝りに行くな!
まず、危機感と常識について俺と話し合ってからだ!」

「ええー」

「『ええー』じゃないっ!そんなんじゃお前、あの紳士の皮被った狼に色んな意味で喰われるぞ!」

「鉢屋、その狼って俺のこと?」

「そうだ、勘右衛門に喰われるからな!分かってるじゃないか…………あ」

明らかに雷蔵とも、名前とも違う声が聞こえた。これはマズいパターンか。
焦りで固まった体を無理やり振り向かせれば、そこには満面の笑みの尾浜勘右衛門さんが立っておられました(ナニこの死亡フラグ……)。

「尾浜くん!」

「名前、ごめんね。ちゃんと俺の口から話し直すから、今の鉢屋の戯言は忘れてね。
アイツの言うこと、8割方ウソだから」

いやいや、いくらなんでもそんな事無いだろう。というか、内面の黒い部分が少し漏れだしてる。
これは本格的にヤバい。雷蔵もそうだが、このタイプの人間は怒らすとろくな事がない。
2人にバレないように、荷物を回収して帰らなければ。

「ああ、確か兵助くんもそういう事言ってたっけ?」

ガターン!
なななななな、何だとぉお!兵助のヤツ、豆腐で買収されたのか!?
そうでなければ、そんな事実無根な事をアイツが言うワケがない。

「そう。だから、忘れてね」

先ほど物音を出してしまったせいか、俺の逃亡計画は見事に崩れ去った。
副音声で「てめえ、逃げるなよ」という言葉がひしひしと伝わってきた。うん、間違いではない。だって、勘右衛門の目がマジだもの。

ああ、雷蔵。最後にお前の顔が見れないのが心残りだ。

「じゃあ、先に玄関行ってて。俺、鉢屋と話してから行くから」

「分かった。じゃあ、三郎くん、今日はありがとうございました」

ピシャリとドアが綺麗に閉まった。それと同時に教室内に響く足音。その間隔は非常に短い。
つまり、勘右衛門の怒りは相当ピークに達しているわけで。

「鉢屋、歯食いしばってね♪」

勘右衛門の素敵なダークスマイルを最後に俺の意識は途絶えた。



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