意識しました


母曰く、

「アンタが倒れたって、アンタの携帯から知らない男の子に言われてねぇ。迎えに行ったら、アンタを不安そうな目でお姫様抱っこしてるイケメンがいるじゃない!
もうお母さん、尾浜くんだっけ?彼にお婿さんに来て貰いたいわぁ」

だそうだ。意識を失ったあとの真相を聞いて、私は再び倒れた。

結局体調は回復せず、月曜日は学校を休むことにした。
尾浜くんからは私を心配するメールが来ていたので、マイペースに返信をした。
ただ、いつものメールと違うのは、送信ボタンを押す度に彼の声が脳内で自動再生されるのだ。
そのせいか、身体の熱は下がらず、頭の中は尾浜くんで埋め尽くされて、ぽわぽわする。


ピンポーン。

あらまぁ。なんて言う母の声が遠くに聞こえる。誰か友達が見舞いに来てくれたのかな。
淡い期待を胸にジーッと扉を見つめていると、階段を上る音が聞こえた。間違いない。誰かが見舞いに来てくれたんだ。
クラスメイトかな。チームメイトかな。扉が開く瞬間を今か今かと待ちわびた。

「それじゃあ、頼むわね」

「は、はい!」

部屋の外から聞こえてきた会話に首を傾げる。
今の声、男の子のだよね。それに間違いじゃなければ……

「名前ちゃん、入るよ」

「!は、い」

やっぱり、尾浜くんだった。
申し訳なさそうに部屋に入ってくる尾浜くんの姿は何だか可愛いらしい。
布団から微かに手を出して手招きをすれば、私の側まで来て腰を下ろした。

「ごめんね、俺のせいで」

「ん、尾浜くんは悪くないよ」

頭を優しく撫でてくれる尾浜くんの手が気持ちよくて、目を細めながらそう言った。
程よい冷たさの尾浜くんの手は、私よりずっと大きくて、ゴツゴツしてて、彼が男の子なんだという事を実感させた。

「ありがとう。見舞いに来てくれて」

自分でもよく分からないが、尾浜くんが来てくれてスゴく嬉しかった。
たった数日見なかっただけなのに、私は彼を見てヒドく安心したのだった。

「うんん。俺が会いたかったから来ただけだよ」

とくん。とくん。
彼の手から伝わる鼓動に合わせて、私の脈拍も速度を上げていく。

「私も会いたかった」

「!」

ふいに口から出た言葉に反応して、尾浜くんの手が止まった。
びっくりして彼を見れば、顔を真っ赤に染めて、空いていた片手で口を押さえていた。

私、なにか変な事言ったかな?

「尾浜くん?」

「ああ、あああ、あ」

頭からゆっくりと手が離れていく。何だかこのまま離しちゃったらダメな気がして、虚ろな意識の中、私は彼の手を捕まえた。

放さない。離さない。
そんな思いを込めて、彼の手を掴んだまま両手を布団に戻した。
慌てて私の名前を呼ぶ尾浜くんの声が聞こえるけど、関係ない。こうしていたいの。

「名前ちゃん、放して!」

「いや、いやなの」

「っ」

彼の息をのむ音が聞こえた。
その直後に、尾浜くんが私を呼ぶ声が耳に届いた。いつもより低く、微かに震えていた声に疑問を持ちながら顔を上げる。

目の前には見慣れたまあるい目が見えた。


尾浜くんだ。


そう思った瞬間、唇に何かが触れる感覚がした。あたたかくて、柔らかい。私はその未知なる何かに酔いしれた。
時間にしてみれば、たった数秒かもしれないけれど、私にとってはとても長く感じた。
次第に離れていくそれに悲しく思った。そして、離れていくのに合わせて、目の前にいた尾浜くんの姿が明らかになってくる。



あれ?
もしかして今のは……

働かない頭は正しく状況を理解してくれなかった。それに追い討ちをかけるように、彼は私に覆い被さり、肩口に顔を埋めた。
尾浜くんの唇が耳にあたり、呼吸が聞こえてくる。すっごく近い。近くに尾浜くんを感じる。

「名前ちゃん、名前ちゃん…………名前」

何度も私を呼ぶ声はどこか苦しそうで、泣きそうだった。
なんでそんな声で呼ぶの?いつも通り、明るい声で呼んで。

「好き、好きなんだ。名前」

「……尾浜くん」

「イヤならイヤがってよ。俺、名前が止めてくれないと」

おかしくなっちゃう。
必死に自分を抑えつけるように叫ぶ尾浜くんに胸が苦しくなる。
この前まで赤の他人だった彼と2人っきりでベッドの上にいる。
尾浜くんの言葉に、行動に、表情に胸が締め付けられる。
苦しくて苦しくて、この感情が何なのか分からない。けれど、今、目の前にいる尾浜くんがとってもとおっても愛おしい。



……そっか。私は、私は、





「尾浜くんが好きだから、イヤじゃないよ」

まだ知り合って一週間も経ってない。きっと互いのことをあまり知っていない。
でも、それでも私は……尾浜くんを好きになったんだ。
ぼやける視界の中、彼と頑張って視線を絡ませた。驚きながらも嬉しそうに顔を綻ばせる尾浜くん。
彼は瞳を潤わせながら、私の頬に手を添えた。

「ありがとう、名前。愛してる」

感謝の言葉と共に降り注いだ二度目のキスと愛の言葉は、私の胸に深く染み込んでいった。




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