「好きです。付き合って下さい」
私に優しく微笑みかけ、彼はそう告げた。
これを世間では愛の告白と言うらしいが、まさか自分がされるとは思わなかった。
しかも、相手は同学年で有名な『尾浜勘右衛門』だ。(正確には彼だけでなく、彼の友人も含めた5人組として有名なのだが)
成績優秀な進学組と言われる1組の学級委員長で、女性に優しく紳士的。また、彼特有のノリの良さと天然っぷりは男女ともに人気があるようだ。
それ故にかなりモテるらしいが、彼は告白されても断ってばかりで、誰とも付き合った事がないと聞いていた。
そんな彼が私に告白?
罰ゲームか何かだろう。
「尾浜くん、今のって罰ゲームでしょ?」
そうだよ。
彼がそう返してくれることを期待して、目を合わせる。
くりくりした彼の瞳が一瞬揺らいだ。
「ううん。本気だよ」
私の望んだ答えと真逆の言葉を言う彼は悲しげに笑っている。
「本気で苗字さんが好きなんだ。突然だったし、俺たち何の接点もなかったから信じられないとは思うけど」
そこまで言うと彼は黙ってしまった。
確かに彼の言うとおり、私と尾浜勘右衛門はクラスも違えば、部活も委員会も出身中学も全く違う。
私は彼が有名人だから知っていたのだが、彼が私を知っていた理由が分からない。
どうして、学年1可愛いと言われる子や読モをしている子からの告白を断り、私なんかに告白しているのか分からない。
「気持ちは嬉しいけど、私、尾浜くんの事知らないから……」
ごめんなさい。
そう言おうとしたけれど、それは彼によって遮られた。
「ああああっ!じ、じゃあさ、友達になってよ!!」
「へっ?」
「俺の事を知ってから決めて欲しい。俺にチャンスをちょーだい」
ヒドく慌てた彼はポケットから黒い何かを取り出すと、私に向かって突き出した。
「メアド交換しよう!」
にっこりと幸せそうに笑う、彼。
私はその笑顔をついつい見つめてしまった。そして、気が付いた時にはアドレス帳に、『尾浜勘右衛門』の名前が刻まれていたのである。