「すっごい……」
目の前に広がるのは、広大な敷地、そしてそこにそびえ立つビルに似た建物。
ここが日本でも有数なマンモス校、『BASARA学園』か。
ちらりと横を見れば、私と同じように呆けている学生がちらほら。それを避けるようにして、学園内へ入っていく人達はおそらく内部生なのだろう。
しっかし……入学当日に言うのもあれだけど、エラいとこに入ってしまったなぁ。
止まっていた足を動かし、「新入生はこちら」と書かれた看板を頼りに校舎内を突き進む。
ここ、『BASARA学園』は10数年前に完成した国立学校。婆沙羅市という場所の中央の高台に幼稚舎から大学院を持ち、各分野で選び抜かれた生徒・教員が15000人のマンモス校。
それらの収容・娯楽・学舎施設を完備した巨大都市学園である。
私は、その学園の高等部普通科の編入試験を受け、奇跡的に合格した。
なぜ奇跡的かというと、BASARA学園には有名人が多かったり、高度な研究施設があるため、外部受験の倍率が2桁……大学受験と大して変わらないのだ。
(おまけに学費&寮費タダ。私はこれに釣られて受験した)
んで、今日は学園全体の入学式・入寮式ということで、とりあえず、自分のクラスに向かう。
しかし、校門をくぐってから、既に20分経っているのに教室どころか、校舎に着かないのはなんでだろう。
「あの……」
軽く冷や汗を書き始めていた時、後ろから女の子の声がした。
振り返ってみると、そこには腰あたりまで髪を伸ばしたか弱そうな子がいた。よくよく見ると、かなりの美人さんだ。
「私……ですか?」
キョロキョロと周りを見渡して、ほかに生徒がいないのを確認して問いかけると、その子はコクリと頷いた。
「そのネクタイ……普通科の人?」
「え、うん」
黒地に校章が描かれてるネクタイ。この学園は多数の学科に分かれているため、一目で分かるようにネクタイで識別をしている。
目の前のこの子も私と同じネクタイを締めているから、普通科なのだろう。
「なら、一緒に教室……」
そこまで言うと恥ずかしそうに目を伏せる少女。ヤバい……可愛い。
………………というか、あれ?もしかして、今。
「誘ってくれたの?」
「……!」
顔を紅潮させて頷く美少女。
予想外の誘いと、可愛い反応に私のテンションは一気に上昇した。
「ありがとう!私、高校からの編入だから、どこに行けば良いか分かんなくてさ」
「ううん……これぐらい気にしないで」
な、なんて優しいのだろう。
入学初日から赤の他人である私に声をかけてくれた上に、教室まで案内してくれるなんて。
この子とは友達になりたい!そう思った私は、すかさず自己紹介をした。
「わ、私、苗字名前って言うの。良ければ、名前教えて」
「…………市、織田お市」
「市ちゃんね!市ちゃん、良ければお友達になって下さい」
そう言って手を差し出すと、市ちゃんはびっくりしたのか、目をまん丸くして、私を見つめた。
見つめ合うこと、数分。
あれ?私、失礼なこと言ったかな?
そんな不安が頭を過ぎったとき、市ちゃんの唇が小さく動いた。
「ご、ごめん。もう一回言ってもらっていい?」
しかし、あまりにも小さな声だったので全く聞き取れなかった。申し訳なかったが、催促をすると、市ちゃんは目をうるわせて言った。
「市が友達で良いの?」
「あったりまえじゃん!むしろ、市ちゃんじゃなきゃイヤだよ、私」
「……ありがとう、名前ちゃん」
その後、私たちはかたく握手を交わし、メアドを交換して、教室に向かった。
不安だった高校生活は、どうやら良いモノになりそう。そんな予感がした。